テレジア兄妹 |
CAST:アルティアラ,ラピリア(テレジア) 「…」 「…」 沈黙。 「え、えと…」 「なんだ?」 「あ、いえ…何でも…」 「…そうか」 わー怖いよ怖いって怖かった! 賑やかな宿屋なのに私達の周りだけ空気が違うのは決して気のせいではないのだろう。 今私、アルティアラはアイリリーの宿屋でご飯を食べていた。彼、と二人きりで。 いつもいるモルモは、今日はティアちゃんのおもちゃ…あ、いやとにかく彼女の 元にいて私は一人だ。いつもいるチェスターやリッドは今日に限って依頼で出掛けていて。 でもお腹は空くので、いつもお世話になってる宿屋でご飯を食べようと腰を降ろした時。 「隣…構わないか?」 「へ?え、あ、ラピリアさん!?あ、うん、いや…はい、大丈夫…かな?」 無茶苦茶パニクった。予想外の人物に話しかけられ、危うくお皿を落としそうにもなった。あぁ、私の馬鹿! ラピリアさんは最近現れたもう一人のディセンダーで、私のお兄さんになる…一応。べ、別に嫌いじゃないんだけど…無表情だから良く分かんなくてちょっと怖い…かな。 正直、何を話して良いか分からない。喋らないと、そう思うんだけど…ううっ、さっきも睨まれた気がする…。もしかして私、嫌われてるのかなぁ。 「…さっきからどうした?」 「え!?あ、いや、別に何でも…ないです、うん…」 食べる手が止まっていたからかラピリアさんが覗き込んできた。私はビックリして、露骨に目を逸らしてしまった。やっちゃった…もう逸らしてしまった目を戻す訳にもいかず、私は俯いてしまった。 はう…本当は色々お話したいのに…。嫌な子だと思われたよね、わーどうしよう! 「あ、そういえば忘れてたー」 沈黙を破り、宿屋の女将さんが声を上げた。何を忘れたのだろうと後ろを向くと。カップを二つ持ってこちらへやってきた。どうやらスープを出し忘れたらしい。 「あ、ありがとうございます」 正直、この空気を破ってくれただけでも凄く感謝だ。しかもスープが付いてきた。女将さん素敵!そう心で叫び、何スープかと覗いた時。 そんな想いは、吹っ飛んだ。 「「キノコスープ…!」」 「わあああっすす、すいません私キノコはってきゃーっ!?」 ハモったのにも正直ビビったがスープの中身を見た瞬間、私は思わず後ろに飛び退いた。理由は不明だがキノコだけはダメ、絶対!例えラピリアさんの前でも無理と謝ろうと彼の方を向いたら。 バタンッ! 「ラピリアさん!?」 急に意識を失ったようにラピリアさんが椅子諸とも後ろに倒れた。宿屋が騒然とする。嫌な予感がして、私は慌てて彼に駆け寄った。 「え、ラピリアさんっしっかり、しっかりして下さい!」 顔面蒼白で、揺すっても返事がない。ただの屍のようだ。 じゃなくて!ああどうしよう、もしここで彼が倒れてしまったら。最近、世界樹 が弱ってきているらしく、私も目眩を起こす事があったが、逆に言うとそれしかなかった。一回気絶したが。 もしかしたら彼がいてくれるから、私は健康でいられるのかもしれない。もし、彼が私よりももっと、辛い思いを沢山してて、そして遂に倒れてしまったなら。 …嫌だ、嫌。 私まだラピリアさんと全然話してない。友達にもなってない。 妹らしい事なんて何一つしていない。 そもそもお礼すら、まだ言ってない。 どうしよう。嫌だ、やめて。 まだ消えないで、お願い。 「しっかりして!ねぇ、ラピリアさん!返事して!」 涙が止まらない。 どうして返事をしてくれないの。 嫌だ、嫌だよ。 祈るように彼の手をギュッと握った。 でも握り返してくれない。 「お願い…兄さん…っ!」 「アル、ティアラ…?」 小さく、声が聞こえた。ハッと彼を見ると、微かに目が、開いていた。弱々しくだが、手を握り返してくれた。 「兄さん!?大丈夫?嫌だよ、まだ消えないで」 「消えないよ…だから、そんなに泣くな、アルティア、ラ…」 頬を伝った涙をそっと兄さんは掬った。良かった、まだお別れなんてしたくないもの。本当に良かった。 小さく笑った兄さんに、もう怖いなんて気持ちはなくて。今まであんなに怖がっていた自分が情けない。 兄さん、大好き。 私の兄になってくれた事、凄い嬉しいから。 ありがとう。 「兄さん、そういえばなんであの時倒れたの?」 風が心地よい。髪がなびく。 隣にいる兄さんは被っているシルクハットが飛ばないようにと手で押さえながら聞き返してきた。 「あの時…っていつだ?」 「はじめて一緒にご飯食べた時。ほら、兄さん倒れたじゃない」 「あぁあれか…あれは……」 やっぱり体調が悪かったのだろうか。実は前々から気になってはいたのだが聞くタイミングが中々なくて。今、思いきって聞いてみた。すると、思いもよらない答えが帰ってきた。 「スープ……キノコスープが…」 「え…?」 まさか。 いやいやまさか。 「…キノコが…見えた瞬間、気が遠くなって…」 「キノコ!?ハモった気はしてたけど…」 つまり私はキノコのせいであんなに泣いて、キノコのおかげで兄さんと仲良くなれたというのか。ヤバい、情けなくて泣きたい。あんなに心配したのに原因がキノコって…!いやでも怖いよあれはモンスター並みに恐ろしいよああ嫌だキノコなんて。 「先代…あ、いや、とにかくトラウマなんだ…キノコ…。名前出すだけでも気持ちが悪い」 「うん…そだね…」 「すまないな、キノコなんかが苦手な情けない兄で…。でもあれは無理なんだ、何があっても」 兄さんはそう言うとシルクハットを深く被り、顔を背けた。そっか、兄さんも私と同じなんだね。思わずクスッと笑ってしまった。一瞬、兄さんの肩が震えた。 「私もね、キノコだけは駄目なんだよ」 「お前が?…あ、別に慰めなくても」 「そんなんじゃないよ!まぁ流石に気絶はしないけどさ、あれは無理。嫌いとかじゃないの、無理」 「…そうだな、あれは無理だ。全身が拒絶してる」 「そうそう!生理的に受け付けないっていうか」 「同感だ」 大きく頷く兄さんを見て思わず吹き出した。初めて会った時に兄だと伝えられたが、正直似てるとこが無さすぎて本当にそうだろうかと疑っていた。今は例え、繋がりがなくたってずっと私の兄さんだと信じているが、折角なら似ているか同じ点が一つでもあれば良いのにな、と願っていた。 まさか嫌いな物…寧ろトラウマになってる食べ物が初めての、同じ点だったなんて。あまりに下らなくって笑ってしまった。 「な…なんで笑うんだ?」 「えーなんか兄さんと同じ物が苦手なんて面白いなぁと」 「そ、そうか…面白いのか…」 「いやいや落ち込まないでよ」 そう言ったのに兄さんはまだ気にしているらしく、ブツブツ何か呟いている。面白いなぁ。どーでも良い事に真剣に悩むし。えへへ、ちょっとからかってみようかな。 「兄さん!」 「ん、なんだ…?」 「スキあり!」 「は?え、ちょ、アルティアラ!?」 がら空きの腰に私は抱きついた。反動で兄さんが若干よろけるが倒れる事はないだろう。しどろもどろしてる兄さんはやっぱり面白い。皆兄さんは無口で何考えてるか分からないって言うけど全然そんな事ないのに。…でも私も最初はそうだった。だからこれからは私が兄さんの面白いとことか良いところとか皆に教えてあげよう。後、通訳。 「兄さん、大好き!」 だからこれからもずっと一緒にいてね。世界が救われた後だって、いつまでも。 ....................... ←back |