メルメル |
CAST:アルティアラ(テレジア),メル,レガッタ,ラグ,ヴィル(グラニデ) あぁ苛々する! みんなみんな、口を開ければヴィルの名前ばっかり! どうしてあいつばっかり注目の的で、私達はえ、おまけじゃないの?って。 「全然違うわよあったまくるわねこの馬鹿あぁっっ!」 群れてた鳥逹が一斉に飛び立った。 「メルちゃん…また一段と荒れてるね…」 「メルメルー苛々はお肌に悪いよ☆」 「うっさいわよ!っていうかその呼び名やめなさいっていったわよね?あぁっヴィル擁護派がここにも!」 「まぁねーヴィル君好きだし」 「私もー!」 「あぁもうこんな可愛い子逹まで仲間にしやがって許さない…許さないってのよ!今…今に見てなさいよ…ウザい目ごと潰してやるわよ…ふふ…うふふふっ」 「メルちゃん落ち着いてーあ、蜜柑食べる?」 「…食べる」 アルティアラが差し出した蜜柑を奪うと早速私は皮を剥きはじめた。蜜柑は偉大よ、神。ふと前を見るとアルティアラとレガッタも剥いていた。 女の子同士で蜜柑剥いて食べてるとかなんて幸せなのかしら! 「メルちゃん顔緩んでるよ」 「良いもの、幸せだもの」 レガッタの忠告だって聞く耳持たず。あぁ、でもちゃんと聞いておけば良かった。五秒後の私は後悔。 「あれ、女の子達こんな所でなにしてんのー。てかメルちゃん顔緩みまくりー」 「なっ、え、ラグ!?」 神出鬼没。実の弟だがそうだと思いたくない。あれに緩みまくってた顔を見られただと…どうしよう、穴が有るなら入りたい。 ラグはケラケラと笑いながらまだ剥いてない蜜柑を取り、後ろにいる人物に投げた。後ろ?まだ誰かいたのか。慌てて後ろを振り向くと、とんでもない人物がそこにいた。 「蜜柑なんて良いですから俺もう帰って良いですか良いですよね!」 「人がいる前じゃ僕何もしないのに。ほら、怖がらないでこっちおいで、僕のヴィル君」 「ヴィル…ですって…!?」 紛れもなくヴィルそのものだった。柱の後ろでビクビクしていたがあのウザい目、声、姿。どれをとっても彼以外の何者でもなかった。 頭の中でゴングがなった。先手必勝。 「苦無閃!」 「え、ちょメルボルン!?というか、っいきなり攻撃ですか」 文句を良いながらもあっさり銃で攻撃を防がれる。流石、素早い。正直な話何時銃を出したのか私は気付かなかった。こんど不意討ちかける時は眼帯をしてる右側から仕掛けよう。そう決めた。 「もうラグさんどうしてヴィル君連れてきたんですかっ」 「だって楽しそうじゃない?ほらヴィル君、やっちゃえー!」 思うとメルがここまでヴィル嫌いになったのにはラグが大いに関わっている気がしてレガッタは小さく溜め息をついた。そういえばアルティアラは、と見ると。 「メルちゃんも頑張ってー!」 「アルティアラちゃん貴方まで…」 一度攻撃が防がれたくらいでくたばる私じゃないわ!体制を整えて再び。不意討ちなんて意味がないから真っ正面から突っ込む。 「一発くらいっ、当たりなさいよ、馬鹿!」 「やー生憎、手加減って言葉を知らなくて」 「ムカつく!っていうかあんた剣出しなさいよ、っ」 さっきから攻撃しているのに短剣を出す様子がない。銃だけで防がれている。…悔しい。こっちは必死なのに彼は楽しそうに防ぐだけ。攻撃もしてこない。 「あぁ、短剣なら今部屋なんですよね、まさか挑まれると思ってなくて。…まぁ、貴方相手なら銃だけに十分でしょう?ふふっ」 「いい加減にしなさいよ!」 洒落を言う余裕もあるのか。しかも寒い。苛々する、あぁ苛々する。馬鹿にされている、見下されている。 いつも勝負を仕掛けていて、もう…実感はしてる。力の差が歴然とし過ぎている。それでも彼を憎まなければならない。憎み続けなければならない。そうでないと、私の今までは何だったのか。彼を倒すと言い、その為だけに今まで修行をしてきた。レベルも上げてきた。世界を守るよりも私にはヴィルを倒す方が大切だった。 「考え事ですか?スピードが落ちてきてますが」 「うるさい!あんたなんて…っ」 どうしてここまで憎まなければならないのか。もう、私にも分からなかった。でも彼を憎んでさえいれば他に考えなくて良い。世界だって、救わなくて良い。これ以上辛い目に合わなくて済む。 結局、私は逃げているのかもしれない。憎み続ければ、なんて私もゲーデみたいな存在になるのかもしれない。それでも。 「一気に片付けてあげる!封魔九印剣!」 いつも戦いの終わりは秘奥義だった。もう結果は分かっていた、はじめから。 「…これで、終わりですか?」 煙の中で平然と立つ彼は欠伸を一度すると、そう尋ねた。傷一つ付いてない、今日も惨敗だった。 「あんた強すぎなのよ!いつもいつも、無傷で終わって…」 「…傷付いてはいるんですけどね、いつも」 何、心が?そう言ってやろうと顔を上げた私は驚いた。確かに、銃を持っている手は切り傷が沢山付いていた。いつも?そんなはずは。というか、 「なんであんた手袋してないのよ」 「それは勿論刻まれたくないですし、お気に入りですから」 という事は。いつも掠りもしないと苛立っていた攻撃が実はちゃんと当たっていたって事?つまりもっとレベル上げれば何時か本当に殺れるって事?あ、なんか嬉しくなってきた。自然とニヤける。 「まぁでも、全然本気じゃないですし俺が貴方に殺られる事は1000年経ったってあり得ないでしょうけど」 「うっ…うっさいわね!そんな事ないわよいつか、必ずあんたをやっつけてエセンダーにでもしてやるから覚悟してなさい!」 「はいはい、楽しみにしてますよ、お姉さん?」 「ムカつく!涼しい顔して!絶対殺ってやるわよ覚悟してなさい…っ」 「はいはい分かったからね、ヒール!」 私がそうメラメラと復讐心に燃えてる横でアルティアラがヒールをかけてくれた。体力が回復するのが分かった。まぁ、TPしか減ってないんだけど。ふと前を見ると銃をくるくる回しながら歩いてたヴィルにラグが激突…あ、いや抱き付いていた。なんとか抜け出して慌てて逃げ出すヴィル。そしてそれを追いかけるラグランジュ。 私はこんな馬鹿みたいな双子の姉なのか。そう思うと溜め息だらけだが、まぁ見てるだけなら良いかなぁとも思ってしまう。いや、いかんいかん。今の人生に満足しちゃ駄目よ私。とりあえず打倒ヴィル!ついでにラグもひれ伏しときたい。 「あ、メルメルまたニヤけてるー。ヴィル君にでも惚れた?」 「はぁ!?な、にいってんのよ!今、丁度あの二人をひれ伏させる方法考えてただけよ。というかメルメルってやめなさいよ!」 「ほらメルちゃん、苛々はお肌に」 「分かってるわよ!」 からかう二人を叱る。あぁまた苛々してきた。苛々を抑える為に蜜柑をまた剥きはじめた。 これから先も私はあれに戦いを挑んで、きっと…負けるんだろう。いや、でもいつか勝てる日が絶対来るに決まってる。そんな日を想って、私は丁度剥き終わった蜜柑を一房、口に入れた。 「ねぇねぇヴィル君なんであんなかっこつけんの?」 「かっこつけ?何を言ってるんですか。こんな傷、大したこと―っ、何をするんですか、ラグ!」 気だるそうに欠伸をするヴィルの横腹に触れると彼は力が抜けたように座り込んだ。触れられた横腹を押さえている。若干震えていて、痛みを抑えているようだった。 ラグは彼の隣にしゃがみこむと空を眺めながら言った。 「触っただけなのに痛いんでしょ?全く君も無茶するよね。本当は大ダメージ食らってるくせに何事もないふりしてさ」 「ヒール!…五月蝿いです、これくらい、どうって事ありません、っ」 立ち上がったが、直後、ふらついたヴィルをラグは慌てて支えた。彼にしては珍しく心配した表情だ。 「わわっ、だから無茶しないでって!まだ座っときなよ」 半ば強引にヴィルを座らせるとラグは小さく溜め息をついた。正直ここまで弱ってるとからかう気にもならない。 隣で座るヴィルは微かに見える世界樹を眺めながら小さく拳を握った。 「俺はまだ…殺される訳には、いきませんから」 ....................... ←back |