ヴィル子さん |
CAST:ヴィル,ヴィル子(グラニデ) 目の前で、世界が割れた。 沢山の泡が、弾けた。 残るのは、俺だけで。 ねぇ、どうして庇ったんですか? どうして―… 「…また…あの夢ですか…」 誰かは分からない。でも多分大切な人。その人が自分を庇って死ぬ夢。 最近は見なくなっていたのに、ここ最近、また夢に出てくるようになった。 妙に生々しい。 まるで、以前その体験をしたような。 「ヴィル、魘されてた。大丈夫か?」 気が付くと俺と同じ顔の「彼女」が心配そうに覗きこんでいた。実体を持たない彼女は少し透けていて、うっすらと天井が見える。 自分に心配されたと思うと情けないが彼女は俺ではない。 「えぇ…いつもの、夢ですから」 そう言い笑ってみせた。 あまり心配はかけたくない。いや、それでも分かるのだろう。彼女は俺だから。 「そうか…」 彼女は小さく頷くと俺をそっと抱き締めた。温かくも冷たくも何もない。さっきも言ったように実体がないのだから。 人間には勿論ディセンダーにも見えない。俺にしか見えないもう一人の俺。マナを与えると実体化するがそれでも短時間だけだ。 「貴方は…寂しくないんですか?」 埋めてた顔を上げ、彼女に尋ねた。キョトンとした顔で俺を見たが、質問の意味が分かったのか、小さく笑うと頷いた。 「お前がいるだけで満足だ」 「…いつもそれですけど本当に?」 「あぁ。ヴィルさえいれば後はいらない。お前も…私にだけ見えてれば良いのにな」 「何を…御冗談はよして下さいよ」 「冗談なんかじゃない。お前はいつも注目の的だから…心配になる。いつか私を忘れてしまわないか。それにお前が傷付いたりしないかとか…」 誰かもそうだったが俺に対して過保護すぎる。俺はそんなに弱く見えるのか。そんなつもりはありませんけどね。 「大丈夫ですよ、貴方を忘れたりなんてあり得ませんよ」 「本当か?絶対?」 彼女は未だ納得出来ないのか不安そうな表情。俺は微笑すると伝えた。 「えぇ、絶対」 そう、忘れる事なんてあり得ない。もう俺は記憶を消したりはしない。 どうして俺は生まれた時に記憶を消す方を選んだんだろう。記憶がないのに苦しんだ。だからもう決して消去なんて方法は選ばない、絶対に。 でもその考えは甘かったのだ。 俺はまだ本当の恐怖を、辛さを知らなかったから。 ―どうしてですか? 記憶が、溢れて痛い、苦しい。 こんなにも辛いならいらなかった。 「貴方に…出会わなければ良かった」 それはまた、別の物語。 ....................... ←back |