ka04 | ナノ


ヴィル子さん





CAST:ヴィル,ヴィル子(グラニデ)

目の前で、世界が割れた。
沢山の泡が、弾けた。
残るのは、俺だけで。
ねぇ、どうして庇ったんですか?
どうして―…


「…また…あの夢ですか…」

誰かは分からない。でも多分大切な人。その人が自分を庇って死ぬ夢。
最近は見なくなっていたのに、ここ最近、また夢に出てくるようになった。
妙に生々しい。
まるで、以前その体験をしたような。

「ヴィル、魘されてた。大丈夫か?」

気が付くと俺と同じ顔の「彼女」が心配そうに覗きこんでいた。実体を持たない彼女は少し透けていて、うっすらと天井が見える。
自分に心配されたと思うと情けないが彼女は俺ではない。

「えぇ…いつもの、夢ですから」

そう言い笑ってみせた。
あまり心配はかけたくない。いや、それでも分かるのだろう。彼女は俺だから。

「そうか…」

彼女は小さく頷くと俺をそっと抱き締めた。温かくも冷たくも何もない。さっきも言ったように実体がないのだから。
人間には勿論ディセンダーにも見えない。俺にしか見えないもう一人の俺。マナを与えると実体化するがそれでも短時間だけだ。

「貴方は…寂しくないんですか?」

埋めてた顔を上げ、彼女に尋ねた。キョトンとした顔で俺を見たが、質問の意味が分かったのか、小さく笑うと頷いた。

「お前がいるだけで満足だ」

「…いつもそれですけど本当に?」

「あぁ。ヴィルさえいれば後はいらない。お前も…私にだけ見えてれば良いのにな」

「何を…御冗談はよして下さいよ」

「冗談なんかじゃない。お前はいつも注目の的だから…心配になる。いつか私を忘れてしまわないか。それにお前が傷付いたりしないかとか…」

誰かもそうだったが俺に対して過保護すぎる。俺はそんなに弱く見えるのか。そんなつもりはありませんけどね。

「大丈夫ですよ、貴方を忘れたりなんてあり得ませんよ」

「本当か?絶対?」

彼女は未だ納得出来ないのか不安そうな表情。俺は微笑すると伝えた。

「えぇ、絶対」

そう、忘れる事なんてあり得ない。もう俺は記憶を消したりはしない。
どうして俺は生まれた時に記憶を消す方を選んだんだろう。記憶がないのに苦しんだ。だからもう決して消去なんて方法は選ばない、絶対に。

でもその考えは甘かったのだ。
俺はまだ本当の恐怖を、辛さを知らなかったから。






―どうしてですか?
記憶が、溢れて痛い、苦しい。
こんなにも辛いならいらなかった。

「貴方に…出会わなければ良かった」



それはまた、別の物語。


.......................

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