※創作BL
予感がした。
バイトを終わらせ、アイツと…まあそれはいっか。一人暮らしだから、誰もいないはずの俺の部屋に明かりがついていた。
空き巣とかそういうのじゃない。
多分あの人だ。
というか俺の部屋の合鍵を持っているのはあの人しかいない。オートロックの入り口に鍵を素早く差し開けると、郵便受けも見ずにエレベーターのボタンを少し乱暴に押した。
早く会いたい。
今すぐ逃げたい。
矛盾する思いが頭の中でグルグルしている。あの人は、嫌だ。多分、俺がこの世で一番怖いと思う人物だ。でも、誰よりも愛しい存在でもある。
アイツとは違う、別の。
エレベーターが9階に止まると俺は駆け足で自分の部屋へと向かった。
鍵は…思った通りだ、開いている。俺は大きく深呼吸をすると扉を思い切り開けた。
「ただいまー」
大丈夫、普通通りにできているはず。
俺がそう言うと同時にリビングから少し激しい音がしてからあの人が出てきた。この前見た時よりも更に髪を伸ばしたせいで表情がより見えなくなっていた。
「おかえり、結飴ちゃん」
良かった、今のところまだ機嫌は悪くないようだ。俺は笑うと扉を閉め、鍵をかけた。
自分で逃げられない状況作ってどうするんだよ。一人ツッコミを心の中でしつつ適当に話題を振った。
「来るって連絡くれたならなんか買ってきたのに。何も無かったでしょ?」
「食パンならあったから食べたよ」
「ああ…でもお腹空いてるだろ?何か注文は?今ならまだスーパーでも、」
「いらない」
「でも」
「結飴、聞こえなかったの?」
目が真剣だ。
相変わらずなに考えてるか分からねえ。
でも、もう俺は逃げられないらしい。思わず背筋が凍る。
「…分かったよ、兄ちゃんがそれでいいなら」
あの人…いや、兄ちゃんは俺の答えに満足そうに頷くと鼻歌なんて歌いながらリビングに戻っていった。
俺の一番大切で、一番恐れてる人。
花崗晧。俺の正真正銘血の繋がった兄貴だ。
兄ちゃんは、壊れてしまったんだ。
…あの時から。
花崗兄弟その1
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