(*BLD)
「もう行くのか?」
うっすら日が昇り始めた夜明け前。まだ少し肌寒く、薄暗い中でこっそりと抜け出すつもりだったのだが、どうやら彼にはお見通しだったようだ。その声に、俺は振り向かないまま答える。
「皆と会うと、行きたくなくなるから。お別れ会は昨日もうしただろ?」
「…フン、だからって黙っていくのはあんまりだと思うけどな」
「なんだ、驚いたね。いつぞやはオレに近寄るな…とか分厚い壁作ってたソーマがそんなこというなんて。いやーほんと驚きだ」
「てめえはこんな時でも人に喧嘩売らねえと気が済まねえのか…」
「こんな時だからだよ」
そう言うと俺は振り向いた。ソーマは壁に寄り掛かったまま、いつもと同じ紺色のパーカーを羽織り、…でもフードは被っていなかった。そういえば最近のソーマはもう全然フードを被ることもなくなったなとぼんやり思う。
「いつも通りで良いでだろ。変に気張っていても仕方ないしな。ちょっと出張に行くだけなのに」
「帰還日が一切読めない出張だけどな」
「まあな。だからって俺はいつまでも向こうにいるつもりは全くないし、用がすんだらすぐ戻ってくるよ。だからソーマ、寂しがらないでね」
「誰が、っ、…んだよ」
いつまでも俯いていて表情が読めなかったから思い切って覗いてみると、少し寂しそうな顔をしていた、気がする。直ぐに逸らされたから分からないけど。前程ではないけれど、それでも俺は未だにソーマの感情を完全に読むことはできない。でも、今はなんていうか…少し寂しがってくれてると嬉しかったり、する。
「俺はね、寂しいかな。背中がね、なんか軽すぎるって言うか」
そう言ってみたけど、ソーマは顔を合わせてくれない。まあいつも通りではあるんだけど。気張ってても仕方ないって今しがた言ったのは俺なんだしな。
「じゃあもう俺行くわ。他の皆を宜しくな、っと…?」
ソーマの肩を宜しくのつもりで叩いてから行こうとしたら、その前に腕を掴まれた。と思ったら思い切り引っ張られ、ポスッという抜けた音と共に、気がつくと俺はすっぽりソーマの腕の中におさまっていた。顔を上げようとしたがそのまま抱きしめられてしまい、少しの沈黙が流れた。
「…早く、帰ってこいよ」
「……ん、絶対帰る」
ソーマの顔は見えないけれど、今腕の中にある温もりを感じていられるのが、凄く幸せだと思った。
出発前発売楽しみですね!prev /
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