短編 | ナノ






(*BLD)


「全然僕は、大丈夫だよ。だからねえ、そんな顔しないでよ」


そういって彼はまた、一片の花弁を零した。


眼から紫色の花を咲かす所謂奇病。且つ難病。突如流行りはじめた謎の奇病は懸かる人間によって症状は千差万別、特効薬も人によって様々な為対処の仕様がなく、懸かった人間はその奇病に精神をすり減らされ、そして死んでいく運命でしかなかった。それでもこの奇病には唯一の特効薬が必ず存在し、それを得たら治ったという例も極僅かではあるが存在する。ただ、先程も述べたように特効薬は人によって異なり、すぐ手に入るものから伝説のような物まで本当に多種多様であった。彼の症状は眼から紫色の花を咲かすこと。彼がこの奇病を発症してしまったのは…思えばもう二週間も前のことだが、彼が日に日に窶れていることは明らかであった。特効薬がわからぬままデタラメに日々は過ぎてゆき、彼の体力が減っていくのと比例して紫の花はどんどん大きくなっていった。また、この奇病は悪化するにつれもう一つ、別の症状を伴うようになるのだが、彼の場合は酷く単純なものだった。それは、痛み。彼が急にやつれ始めたのは花びらに体力を奪われているからだけではない。彼を襲う強烈な痛みによるものだった。痛みは分からずとも彼の表情がそれを現していた。日に日に増す痛みを、俺達の前では隠そうとし、儚げに笑うのが何もできない俺たちにとって、酷く辛いものだ。最近は痛みは益々悪化し、悲鳴を上げる彼に看護師の方が耐えきれず鎮痛剤を無理矢理射たされ、もう、起きている時間より眠りについている時間の方が多かった。眠っていると、ぽろぽろと紫の花弁を落とし、落とされた花弁はそのまま枯れてしまう。そうやって、彼はそのうち花を散らす事もなく永遠の眠りへと堕ちていくのだと、幾度となく考えてしまう自分が嫌だった。


ナマエは、もう細くなってしまった小さく、白い指でそっと俺の頬に触れた。そのまま、力無く落ちそうになった腕を掴む脆く、砕け散ってしまいそうだった





同じく診断ネタ。

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