短編 | ナノ





(*BLD)

変わらぬ日常は突然崩れた。金曜日の夜、何時もの様に彼の家で帰りを待っていたら携帯の着信音が鳴り響いた。発信元は雅兄で、何事かと思ったら一言、「棗が病院に運ばれた」。それから先、何を言っていたかは思い出せない。ただ気が付いたら僕は病院にいて、ずっと、椿兄と梓兄が傍で手を繋いでいてくれていた。

棗兄が病院に運ばれたのは当然、倒れたからだ。仕事が終わり、帰ろうとした直後に倒れたと聞いた。棗兄の同僚の一人から今日は金曜日だから弟に会えるって少し上機嫌だったと聞かされたけれど、一層辛くなるだけだった。病院に運ばれたけれど、棗兄に異常は見当たらなく、けれども目を開くことはないまま三日が過ぎた。僕は何時までも棗兄の傍を離れたくなくて、隣で寝ていたらふと、大きくて、でも優しい手が僕の頬に触れ、目を開けたら、穏やかな顔をした棗兄が、目を細め僕を見ていた。漸く目を覚ましたのだ。驚愕と安堵で、涙を流しながら棗兄、これは夢?本当に、棗兄?そう聞くと棗兄は額にそっとキスをしてからいつものように頭をくしゃくしゃと撫で、ごめんな、と謝った。その時、棗兄の右眼から、瞳と全く同じ色をした花弁が一片落ち、僕は気付いてしまった。棗兄は不治の病にかかってしまったのだと。この世に一つしかない特効薬を見つけ出さなければ、決して治ることは無い難病に。落ちた花弁は酷く艶やかで、まるで棗兄の生命を吸い取った様だった。

それから数ヶ月。もう長い間、棗兄は目を覚ましていない。この奇病には、進行すると症状がもう一つ増えるという特徴があるのだが、どうやら棗兄の場合は眠ってしまうという症状だった。流石に学校を何時までも休む訳にはいかず、今は学校帰りに毎日寄って帰るが三週間程前に目を覚まして以降、棗兄はずっと眠ってしまった。今も穏やかな顔で眠り続け、僕に笑いかけてくれる事はない。眠り姫は王子様のキスで目を覚ますと言うけれど、眠り王子は、お姫様のキスでも目を覚ます事はないのだ。

ただ、紫の花片がまた一片、音も無く落ちていくだけだった。



を閉じた王子様


診断ネタでした。

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