短編 | ナノ


*待ちきれなくて(うたプリ/トキヤ)





*男キャラ×男夢主

「お疲れ様でした」

「お疲れー」


午後10時。漸く仕事を終え、挨拶をし、外に出ると思わず溜め息をついてしまった。
この時間なら部屋に着くのはきっと11時過ぎ。音也はもしかしたらもう寝ているかもしれない。それに、彼もきっと…。


「今日はいつもより遅いからって、学園の人が来てくれたみたいなんだ。だから駐車場じゃなくて出入口に向かうよ」

「あ、はい」


彼に会いたい、けど寝てしまっているなら起こすわけにはいかない。
どうせ明日の朝になれば会えるのは分かっているが、一度会いたいと思ってしまったら中々抑える事ができない。


「おや…なにやら騒がしいね」


エレベーターが一階につき、降りると確かにマネージャーの言う通り出入口辺りに少し野次馬ができていた。
女性達の黄色い歓声も聞こえるし誰か有名な方がいるのだろうか。
ちょうど、その野次馬から出てきた女性二人組にマネージャーが声をかけた。因みに手にはサインしてもらったらしい色紙が…このサインは…。


「誰か来ているんですか?」

「ええ!月宮ナマエがいるの!」

「ナマエくんってほんと可愛いのね!りんごちゃんそっくり!しかも頼んだらほんとにサインしてくれて!今スタッフだらけのプチサイン会やってるわよ」


やっぱり見覚えあると思ったらナマエだったのか。
彼の名前を聞いて少し胸が高鳴る。


「よくわからないけど誰かに会いたいって…」

「そうそう。確かHAYATO様…そう、貴方よ、HAYATO様よ!」

「え…?」

「HAYATO様!って、今、聞こえた!」


女性スタッフから突然自分の名前が出てきてキョトンとしていると、野次馬から聞き覚えのある声が響いた。
少ししてから姿を現したのは、紛れもなくナマエ本人だった。


「ナマエ…?」

「えへへ…帰りが遅いって聞いて迎えに来ちゃった。…なんてね」


ナマエは私のところまで走ってくると小さな声でそう言った。
少し唖然としていると、ナマエは私の腕を掴むといきなり走り出した。


「え、っ、ナマエ!?」

「マネージャーさん後は僕が連れて帰るんで任せてくださーい。スタッフの皆またね!」

「またね…ってナマエくん!?」


そのまま私はナマエに連れられるままに建物を後にした。




「ふう、此処までくれば大丈夫でしょ」

「ええ…ってナマエ!?貴方どうして…」

「だから言ったじゃん。帰りが遅いって聞いたから。…って、兄さんが迎えに行くって聞いて無理矢理ついてきただけなんだけど。聞いてなかった?」

「…そういえば言っていたかもしれません」

「珍しいね、トキヤが聞き逃してるなんて。それともマネージャーさんがちゃんと伝えてなかったのかなあ」

「いえ、その…貴方に会いたいと思って、そればっかり考えていたから聞き逃したんだと思います…」

「な…んだよ、それ!ば、ばっか、お前そんなんで大切な事聞き逃してたらどうするのさ!」

「そうですね…すいません……」

「僕に謝られても…。その、たとえトキヤの仕事が長引いちゃって、深夜とかに帰って来たとしても、僕に会いにきたかったら真夜中だろうがいつでも来てくれて構わないから。ぼ…僕だって、会いたいし……」

「ナマエ…」


周りが暗くてもナマエが真っ赤な顔してるのは分かる。
堪らなく愛おしくて、彼に触れようと手を伸ばした時。


「こらー可愛い弟から離れなさい!!」


クラクションと共にこれまた聞き覚えのある怒声に、我に帰った。


「つ…月宮先生…」

「兄さん遅かったじゃんか」

「あんたが余計な事するからでしょ!全く…ほら乗りなさい」

「だって、トキヤの顔見たら嬉しくなったんだもん、ね?」


ナマエは多分、私にしか聞こえない声でそう言い、ウインクをすると車の助手席の扉を開け、乗り込んだ。
どうしよう、凄く嬉しい。このまま一曲歌えそうなくらいには、とにかく嬉しかった。


「…此所に置いていかれたいならそれはそれで私は良いけれど?」

「い、いえ乗ります!」


なんて、置いていかれるのは困る。慌てて荷物を持ち直すと後部座席の扉を開け、乗り込む。
私が扉を閉めると同時に車は走り出した。




「全く…私ならまあ可愛い弟だし、あんたに渡すのは癪だけど大目に見てあげるけどシャイニーにバレたら即退学よ?」


発車してから大分して、月宮先生がそう口を開いた。
ナマエは発車して暫くは喋っていたのだが段々眠くなってきたのか口数も減り、遂には寝てしまった。
つまり今の言葉は私に向けて言っているのだろう。


「でも、この気持ちは抑えられませんし、彼を諦めるつもりもありません」

「もしもシャイニーにバレちゃって、この子と別れるなら許してやるって言われたら?」

「バレるつもりはありません。それに、バレたら即退学なんでしょう?なら譲歩なんて、有り得ないと思います」

「…それもそうね。全くなんでこんな危ない橋を選んだのかしら」

「それでも、私は」

「ナマエが好きなんでしょ?もう分かってるわよ、あんたが一番この子を幸せにしてくれる人だって。まあ、バレないようにね。それだけが気がかりだから」

「…はい」


思わぬ展開で、あの月宮先生から遂に許しを得た。
今まで散々邪魔されてきたからこれはこれでかなり嬉しいかもしれない。ナマエは未だに私との関係を隠したい様ですが。そもそもバレてないと思ってるみたいですし。
しかしこれで、最大の邪魔者が消えた…


「あ、邪魔はするわよ。可愛い弟が取られるなんてやっぱり癪だもの」

「え…認めてくれたんじゃ…」

「認めはしたけど…これはまた別よ。精々覚悟しておく事ね!」

「何がどう別なんですか…」


月宮先生のウインクは同じウインクでも弟とは大違いですね…少し寒気が。

外を眺めようと窓に視線を向けたら前の席で寝ているナマエの顔が映っていて、外なんかよりそっちを凝視してしまう。
ナマエの傍に、いつまでもずっと永遠にいたいと思うのは本当にそのままの意味だと思う。
例えどんな困難があったって、私は貴方を愛し続けると誓いましょう。なんて、言ったら貴方はどんな表情をしてくれるんでしょうか。
微かに聞こえる彼の寝息さえも、愛おしく感じた。
.......................

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