わたしは、わたしは幸せだったのです。 そう呟いて、光秀は笑った。あまりに儚く、消え入りそうな、危うい笑み。自らの腕の中で肩を上下させる。どくどくと、血が、嗚呼何故どうして目を閉じる?
「貴方と太平の世は見れませんが」
聞きたくない、そんな言葉はいらない。歩み続けると誓ったはずだ。何も為していない、何も、何も。はずなのにどうして、そうまで、安らかな顔を浮かべるのか。
「貴方の腕の中で逝けます」
何処へ、
そう喉から出かかった言葉は辛うじて飲み込んだ。生理的なものか、感情的なものか、溢れた涙を拭ってやる。そのまま頬を撫でれば、冷えた体温を感じて少し、震えた。死など常に近くて、慣れてしまったはずなのに。
元親殿、元親殿。うわごとのように繰り返す光秀に何度でも返事をして、伸ばされた手を握って、そっと口付ける。光秀、光秀光秀光秀!鼓動が激しい。心が叫ぶ。なのに、ひゅう、と息が洩れるだけで声にはならない。握り返す力が徐々に抜けていく。それを感じて、離すものかとより強く握った。離さないとそう誓ったのだ。どんなことがあっても、絶対に。だから、だから
「光秀、」
生きたいと言って欲しかった (手を離したのは紛れもなく)
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