小説 | ナノ

「雨が降っているな」

「雨?」
「ざあざあと。聞こえる。」
「…私には見えません」
「構わない。今は、目を閉じていれば良い」

「眠れないのです」
「夜は長いか」
「はい、どうしようもなく」


部屋の中から外を見る。遠く、遠くに目をやった。刺青の男は、ゆっくりと瞼を閉じ、耳をすます。小さな音が集まりざわめきを作り出している。嗚呼、悲しい。痛々しい音だ。男の心にも小波が、生まれては消えていった。穏やかな刹那はいつくるのだろう。自らの中で生まれた波紋に、答える声は何も無い。けれど、それがいつになろうと、居場所は決まっている。今はただ、寄り添うのみ。と。男は、半身を引き寄せ抱きしめた。

行き交う熱。
濡れた頬が僅かに色づき、笑みを作ったことだけで、充分。今は、そう、今はまだ。


「早く、雨が止めばいい」



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