01


きっかけって言うのは人それぞれだと思う。

俺はこれがきっかけだった。

『さようなら…』


初めは高校に入って間もない時期。

中学からろくでもない不良だと言われてきた俺は、案の定高校でもやらかして、学校に行くのをやめた。

たまには、面白い事でもないかと行くのだが、何も面白い事など無くて。

とくに優等生を気取っている一之瀬博人という男が嫌いだった。

男なのに、どこかなよなよにこにこ、女みたいなやつだと鼻で笑っていたのだ。

しかし、そんなこと、アイツの事を全く知らない俺のただの偏見だったと気がつく。

家になど帰りたくない俺は、その日の夜、何の気なしにコンビニに寄り、友達の家に行く途中。突然背後からスタンガンを押し付けられ気絶してしまう。

次に目が覚めた時、俺は全裸で、手首と二の腕、足首と太腿を頑丈なベルトで括られ、どこかも知らないところに寝かされていた。

『拓海くん、おはよう』

これが博人との最初の会話だった。

それからは酷くて、泣いても叫んでも無意味な時間を過ごした。

博人が興味あるプレイは何でもやり尽したように思う。大半が記憶が曖昧に擦れ、痛みとそれに勝る快楽が脳を溶かした。

陵辱の日々は俺の神経をすり減らし、常に博人に対し多大な恐怖と、ほんの少しの、期待を感じさせていく。

人間の順応機能はその生活に慣れていき、あれほど嫌いだった男にもなんだかこのままで、これが一番幸せなんじゃないかと思えてならなくなった。

博人という人間は、拒絶すると恐ろしいが、愛されたい愛したいという簡単な心理からできていることの気が付くと、自分と同じ、愛に飢えた人間であることがわかる。
それがどんどん可愛そうになり、悲しくなり、愛おしくなった。

ストックホルム症候群とは、本当にあるんだ…。と自分の気持ちがわかった頃、ぼんやりと苦笑した。

だが、そんな症状でも、似た境遇と求めていたモノが同じだったならば、それはストックホルム症候群というより、深く、必然的な、恋だったに違いない。
同じ世界に恋い焦がれたままに、その相手に恋したのだ。

初めは信じられなかったのに、逃げられなくて、逃げたくなくて、恐ろしいく痛いのに、この世界は実に居心地が良い。

感情に葛藤を抱いて、どうしたらいいのかわからなくも、ずっとこの生活が続くなら、いつか自らも愛おしいと博人に言ってもいいかもしれない…。


『良かったね、拓海くん。拓海くんはもう自由だよ』

『…いらないよ』

『さようなら』


きっかけって言うのは人それぞれで。

俺はそれから、前よりもぽっかりと心に穴が開いてしまった。

逃げたいと、嫌いだと、自由になりたいと思ったのに。

滅茶苦茶に調教されてから放り出されると、それはすでに心は雁字搦めに博人に縛られたまま。

「好きだ…」

と気が付いて。

絶対にこの雁字搦めで穴が開いた心を、博人で埋めてやると、決意した。


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殆ど学校に行っていなかった俺は、このまま留年するか学校を辞めるか、転校するか、の選択肢を貰った。

目標が決まった今では、留年と、転校の二つを選択する。

義母は転校させる金などないから、辞めろと喚いて嘲笑ったが、俺もこんな奴の金を宛てになどしていない。転校先は私立の完全寮制男子高校だ。

この女とも離れられるし、成績が認められると学費が免除される。

超難問の定期テスト、各学年2位までの成績優秀者でその座をキープしなければならないが、俺はそれをキープする自信があった。

誰よりも自信に溢れていた。そうでなければ、博人には会えないと思ったからだ。

学校、勉強などクソだと思っていた分、その勉強は容易ではなかったが、寝る間も惜しんで勉強する。死に物狂いとはまさにこの事だ。

何が何でもこの高校だと思ったのは、金持ちと天才しか入れない学校に、もしかしたら博人がいるかもしれないし、それぞれが有名な会社の次期社長で何か情報が手に入るかもしれないと思ったから。上手く行けば何らかの形で博人の支えになる力を身に付けられるとも思った。

次の年の入学テストで、俺は満点を取った。

学年は、本来なら3年だが2年からの外部転校生として入学することができたのだ。

満点で転校してきた俺は結構な注目を貰うことになる。

ここでは同性愛もお盛んなようで、俺も引く手数多だったが、卒業するまで誰とも付き合わず、成績と抱かれたい抱きたいの人気投票で出来上がった生徒会に精を出した。

俺の順位は2年生1位、抱かれたい男2位。

勉強のし過ぎで目が悪くなったのは仕方がない。今では眼鏡かコンタクトが必須だ。それがまたカッコイイと言われると、悪い気はしないが、どの野郎にも俺は食指が向かず、溜まれば一人で処理する。

自分の美貌を知り尽くしたような可愛いだけの男ではなく、自分を嬲ってくれるような奴がいいのだろうか?、博人のような…。

それで、自分がマゾなのかと思ってもみたが、博人に雰囲気の似た男を少しからかって喧嘩に持ち込むが、一発殴られると、苛々とした不良だった時の血が騒いでしまい、その博人似の男を逆に殴り飛ばし病院送りにしてしまったからどうしようもない。

(マゾじゃねぇのか、…)

博人似だったのに、その顔に拳を叩き付けることになんの躊躇いもなかった。

もしも本当の博人だったら。

俺は殴られても蹴られても、ケツに腕突っ込まれても、その綺麗な顔は殴れないだろうと確実に思った。一つも反撃できない。ただ跪いて、言いなりになって、散々泣かされたあとに、優しく頭でも撫でてくれたら。今度は、今なら、素直に愛していると言う自信さえでてくる。

病院送りにした事はもちろん問題になるはずだったが、この学校は成績が一番であり、多少の問題はもみ消してくれるようだった。


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