龍樹×慧(亀速)


「………」

龍樹は目の前の生き物に、言葉を無くした。

(猫…?)

自宅のソファの上タオルケットをかけ、すやすやと眠る恋人の耳には真黒な猫の耳が付いていて、針金が入っているのか黒い尻尾が鍵を成し曲がっている。

あどけない寝顔がさらに気高く可愛らしい猫のようで、龍樹は既に何分とも佇んだまま、この事態の説明を無言で求めた。

「…おい、慧」

あまりに幸せそうに寝ているものだから起こすのは忍びないが、このままでいいはずがないのだ。龍樹の理性が。

「っ…ん〜…」

軽く肩を揺すると、慧は瞼を震わせ、唸ってからその身を起こした。

ズルリとタオルケットが落ち、寝ていたため乱れたスーツから見える鎖骨が妙に色っぽい。

今すぐにでも押し倒したいが、慧はあまり強引なのを好まないため、グッと耐える。ヤクザの頭をしている龍樹が我慢するなど、あり得ない事なのだが、慧だけには自分でも驚くほど優しく接した。まるで壊れ物を扱うかの如く、いつもソッと大切に触れるのだ。

「慧、こんなところで寝たら風邪を引く、せめてベッドで寝ろ」

「…ぁ、…龍樹さん…」

まだまだ寝ぼけ眼で、いつもよりスローな声が慧から発せられた。いつもおっとりとしている分、寝起きはさらにゆっくりなのだ。

慧はのろのろと手を伸ばし、龍樹の首に腕を絡め、耳元に口を近づけて。

「お菓子、下さい…イタズラ、しちゃいますよ?」

と、甘い声で呟いた。

(店のハロウィンイベントか…?)

仮想の理由は分かったが、普段べたべたと甘えた所も出さない恋人なだけに、今日はえらく積極的で龍樹は少し驚いく。しかし、いつもこんなに甘えてくれると嬉しいのだが、と内心苦笑したのは、慧からお酒の匂いが色濃くしたからだ。

ホストをしている慧はそれなりに飲んで帰ってくる。ホストなだけに滅多に酔うことはないのだが、今日はハロウィンのイベントがあったようで、慧の可愛い仮装に、客たちが酒を入れまくったのだろう。

龍樹としては恋人が客商売をしていることは気にくわないが、慧はのほほんとしていて、しかし、頑固なところもあった。止めろと何度言ってもやめないのだ。楽しみにしているお客さんがいるからと。

「ったく…酒は飲んでもいいが、甘えるのは俺だけにしとけよ」

「ん〜…お菓子くれたら…」

龍樹が本気を出せば、慧の職など簡単に無くしてしまえるが、慧には自分の意志でこの先を進んでほしいと思って居る。それでも龍樹は、ホストを止めさせるように、徐々に仕向けているのだ。今では9時に帰宅するよう、裏から手を回している。

そんな事に気が付かない慧は、龍樹に抱かれるまま、寝室へ向かった。

ベッドにソッと置かれ、ノシッと龍樹が慧の上に乗る。スーツを丁寧に脱がせて、緩めのネクタイを解いく。

プツ、プツ、とシャツのボタンをはずせば、慧の色白の肌があらわになり、ほんのりと酒で赤く色づいていた。慧本来の和美人の容姿に、細いがしっかりとした滑らかな魅力と、とろんとした酔った雰囲気が、クラリッとくる色香を漂わせる。

それらを見てしまった龍樹は、自分の中のなにかが切れたのを感じた。

「ぁ、…ん…ッ…お、かし…」

熱い体に冷たいシーツが滑り気持ちがいいのか、慧はくねくねと身じろぎして、お菓子お菓子と、譫言の様に言っている。

「後で好きなだけやる」

「ふ、あッ…は、ぁあッ」

ベルトに手を忍ばせながら、龍樹は慧の口元の黒子にキスをし、徐々に首へ、鎖骨へ、と下がっていく。

胸の赤い突起は、触れてもいないのに、ツッと立っていて可愛らしい。それに舌を這わせ転がすと、慧の体がビクリッと反応した。

「りゅ、き、さ…ッあぁ…」

「熱いな…どれだけ飲んだんだ?」

「ぁ、わか、な…ひぁッ」

下も全て取り払い、龍樹はわからないほど飲んだ慧に苦笑する。

もちろん猫耳は付けたまま。

ただでさえ、色気のある顔に酒が入り、誘うような顔のまま店内にいたのかと思うと、それを見た者全員を潰してやりたくなった。

慧の秘孔にローションを絡めた指を滑らせ、ノックするように叩く。

「あッ、ぁ、はッぁ…んッ」

少し焦らすと、慧の腰が自然と揺れ始め、誘うように涙の膜を張った瞳が龍樹を見上げる。

ドクリッと己の雄が苦しげに育つのがわかり、龍樹は指をナカへ入れた。今すぐ挿入したい衝動を抑え、ゆっくりと、ほぐしていく。

「…ひッ、あ…ん、ぁあッ…ぁ」

「慧」

「ん、ぁ…龍樹…さんッ、あッ」

一度、慧をイかせ、指が3本ほど入って、そろそろ挿入してもいいかと言う時。

「…慧?」

「……」

「おい、慧っ」

「……」

スースーと言う安らかな呼吸音が、しんと静まった寝室のベッドの上、今から抱こうという人物から聞こえてくる。

ソファで寝ていた時より、一度出してドッと眠気が襲ったのか、慧はそのまま何度揺すっても起きる気配がなかった。

「……はぁ」

龍樹は大きく溜息をつき、脱力してしまう。

ここまで誘われて、寝られたのは初めてだ。

金回りも良く、男の色気があるモデル張りの龍樹を前にして、ぐーぐー寝る奴はいないだろう。再び苦笑する。

龍樹は仕方なしに、風呂場へ行き、熱を冷やした。

「Trick or Treat…か」

お菓子をあげなかったから、悪戯されたのだ。なんとも悪い黒猫だ。


「ホストは早めに辞めさせるか…」


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