将のいつもと違う日


真夏の太陽が飽きもせず照らし続ける季節。

今日もいつもと変わらない日の筈だった。

いつもと変わらない神社。いつもと変わらない本殿。

だけど、少し違う事があって、それは俺が表の縁側で寝てしまった事だ。

普段は日陰が多く涼しい風が吹く裏の縁側で昼寝したりしているのだが、今日は逆のようで表の縁側の方が涼しい。

仕方なしに表の縁側に座って微風に当たっていたら、ついウトウトしてしまい、そのまま眠りについてしまったのだ。

「―――ん―――ちゃん!―――お兄ちゃん!」

誰かが俺の体を揺すって叫んでる。

その声にゆっくり目を開けると、子供が3人俺を囲んで、心配そうにしていた。

……。頭が?で一杯になる。狐憑きで有名なこの本殿には子供はおろか大人さえ近づかない。ましていつも寝ている裏の縁側にも誰一人として来ない。

なのになぜ子供?と思ったが、そう言えば今日は表の縁側で寝てしまったんだ。と思いだす。表の縁側は神社の入り口から丸見えだし。

俺はゆっくり起き上がった。

「お兄ちゃん!ここで寝たらダメだよ!」

真ん中のおかっぱ頭の女の子が俺に向かって注意した。

「なんで?」

「……お狐様がいるから」

女の子の隣の髪を短く切った男の子が声を潜めて言う。

「へぇ、そうなんだ…で君たち名前は?」

お狐様ね…。と内心苦笑しながら、聞いた。

「わたし、亜季!こっちが太一くんで、こっちが海くん」

おかっぱが亜季ちゃんで、短い髪が太一くん、無口な
子が海くんだそうだ。

「俺は将。よろしくな」

人と話すのは久々なため、つい顔がゆるんでしまって、笑顔で言うと三人も、よろしく!と元気に返事をした。

「お狐様は大丈夫だけど……ねぇ何か遊ばない?」

「何して遊ぶの?」

待ってて。と言って俺は本殿の中へ入って行く。子供達が不安そうにその様子を伺っていたが、俺がコマやお手玉、おはじきといろいろ持ってきたから、わぁ!と楽しそうな声をあげた。

俺も久々に人と接触して楽しくなり、ついつい子供をおもちゃで引きとめてしまった。と苦笑したが、楽しいものは仕方ない。

昔、大勢の子どもとこうやって遊んだな。と思いながら三人と縁側で遊んだ。

だけど、暫くしたら太一くんが縁側から降りて言う。

「缶蹴りしようぜ!」

その声に亜季ちゃんも海くんも頷いく。

「お兄ちゃんもやろう」と海くんが俺の手を引くが、
残念な事に俺の足は歩くができなくなってしまっている。

「ごめんな、俺歩けないんだ」

言って足の腱にある傷を見せた。動物にかまれたような痕。

三人は残念そうに俺を見たが、太一くんがハッとして、どこかへ駆けて行った。

暫くしないうちに戻ってきたその手には子供サイズのソリ。

太一くんは、冬の時神社に隠しといたんだ。なんて誇らしげに笑う。

「じゃぁ缶蹴りやめて探検にしようぜ。お兄ちゃんこれ乗って、俺らがこれ引くの!」

俺は少し迷ったが、夕方までに本殿へ帰してくれるならと、ソリに乗った。

冬ではないので引いて歩くのに少し大変だったが、お兄ちゃん軽いから大丈夫だよ。と三人は楽しそうに言う。

いろんな所に行って遊んだが、そろそろ夕刻だと帰ろうとしたら、不意に後ろから声がかかった。

「将、なにしてるノ?」

右京だ。

「遊んでた」

俺は捕まえたカブトムシを放して右京の方へ両手を伸ばす。

近づいてきた右京の首に手を回し、右京はそのまま俺をソリから抱き上げた。

子供達はいきなり現れた背の高い男にびっくりした様子だったが、嬉しそうに笑った俺の顔をみて、友達?とか背高いね!などきゃっきゃっ騒いでいる。

「将と遊んでくれたの?ありがとウ」

そう言って右京は俺を抱いたまま、子供達は何も乗ってないソリを引きながら神社へ戻る。

神社に戻る頃には陽は微かにしか見えなくて、ただその残った赤が空を染めあげていた。

神社の入り口で、またね。と言い、俺と右京は本殿へ向かおうとした。
すると亜季ちゃんが。

「お兄ちゃんは帰らないの?」と訪ねる。

俺は右京の方へ顔を向けてそのままギュッと抱きしめ。

「俺の帰るところは右京のところなんだ」

そう言って、俺と右京は本殿へ向う。

俺の答えに右京は満面の笑みになり、口が耳まで裂けたのを亜季ちゃんは驚いて見ていた。


「…お狐様―――――」

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