06
「…やよ――――」
「しんじいいいいい!!」
「おい!心配したぞ!!」
信司の声を遮って、走ってきたのは他のリレーメンバーで、信司は己を心配してくれたことに感謝しながら、事の次第を説明した。
もちろん佐々木のことは言わなかった。佐々木にもなにか事情があったのだろう。信司は仲間の肩を借りながら、保健テントまで向かう。
弥生はそれを少し後ろから眺めていた。信司もそのとこには気が付いていたが、とくに何も言ってこない弥生にどこか苛立ちを覚え、こちらも何もいわずにいる。
保険テントには保険医の姿はなく、昼食でも食べているのだろう、探し行く、と弥生と信司をそのテントに残して、他の者は去って行ってしまった。
「……」
「……」
お互い無言のままだったが、なかなかに戻ってこない保険医に、昼休み終了の時間も迫ってきている。
「…足」
とうとう沈黙を破ったのは弥生で、信司の足をスッと持ち上げると、そこらへんにあったもので手際良く、手当を施していく。
無我夢中で走っていたものだから気が付かなかったが、木の枝やらで切ったであろう傷も、弥生は丁寧に消毒し、絆創膏やガーゼを貼っていく。
強めに固めた足首は少し走りずらそうだが、立っても痛みも何も感じない。信司は微笑みながら弥生に礼をした。
弥生が手当してくれたことにも、信司の心は歓喜している。
「ありがとな」
「…保険医がこないから」
と無表情のまま弥生は言う。しかしどこか照れたように見えるのは、信司が観察し続けた成果なのか。
「……」
「……」
『体育祭最後の種目、学年対抗リレーに参加の生徒は集まってください』
アナウンスが響き、しばらく無言だった二人は保険テントを出て、集合場所へ向かった。
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