01
俺はこのまま死んでいくのだとわかっていた。
酷い人間が遊び半分で俺を蹴って、殴って、山に捨てたのだ。
はぐれ子狐だった俺は何もできなくて、そのまま死んで、呪って、祟ってやろうと思っていた。
息も絶え絶えで、死ぬつもりで目を閉じる。
次に目を開けた時にはきっと天国だと思ったが、実際には神社の前だった。
人間の匂いがする。
見れば人間の子供が俺を抱きあげて泣いていた。
「ぉ、きてぇ!…ひっく…ねたら、め!」
おいおい泣いて俺を本殿の縁側へ優しく置いた。
持っていたハンカチで傷を手当てをしている。
まぁ、ただ巻いただけで、手当てとは言えないが。
変な子供だ。
「ぅう…ひっ…ひっく」
まだ泣いている。
暫く泣きながら俺を撫でて、ふと何処かへ行ってしまった。
やかましい泣き声が消え、これで静かに逝けると思ったが、また子供は戻ってきた。
手にはあんぱん。
小さく千切っては俺の口元へ持ってくる。
これから死のうというのに…俺は拒んだが、また泣きだしそうになったので、面倒だが仕方なく食べる事にした。
子供は笑顔になって喜んだ。
その笑顔に釣られて、俺も小さく鳴いた。
この子供はいい奴だ。とっても、とってもいい奴だ。
俺は子供が好きになっていた。
暫く、優しく俺の頭を撫でていたが、人間の男が迎えにきて、一緒に帰って行った。
あぁ…行ってしまった。
寂しい、悲しい、寒い、憎い、恨めしい。
俺の好きな子供を連れて行った、あの男が嫌いだ。
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