08
高校に入ると旭之は見事に私より大きくなっていた。
柔道では全国大会で準優勝するほどだ。
あれから私も旭之の部活動について勉強し、大会などには応援に行ってさえいる。
「旭之!頑張れ!!」
なんと賑やかで楽しいところか、それでいて手に汗握る迫力がある。
柔道をしている旭之はかっこいい!引き締まった体を惜しげなく使い相手を倒している。私は旭之が強くなればなるほど嬉しかった。
『奥方様!いけ!そこです!!』
『押すのです!奥方様!!』
「いやそこは背負い投げるのだ!!旭之!」
眷属たちも私の肩からでてきて、前足二本をあげて応援している。
「あああ!!旭之が勝った!!勝ったぞ!!見事だ!!」
勝てば喜び、負ければ悔しさに涙した。眷属たちも共に感動している。
「旭之!」
旭之が私の方を見たので、私は前のめりになりつつ手を振った。嬉しくて何度も手を振る。
私の髪が白くて本当によかった。よく目立つから旭之は見つけやすいだろう。
さて今回の大会は県大会だったので、旭之は見事優勝した。二年の時と同じである。
大会が終ったのを見計らい、旭之のところまで行く。高校の部活動で出ているので、まだしばらく顧問から話があったようだが、待っていれば旭之がすぐに控室を出てきた。
「くも」
壁にもたれかかって今か今かと待っていた私は、名を呼ばれすぐに旭之に飛びついた。
「嗚呼!おめでとう旭之!!」
「ありがとう」
「かっこよかった!特に最後の背負い投げは圧巻だった!」
決勝とは相手も猛者なのだが、旭之は判定にもっていくより一本とって勝つことが多い。その点は強みだ。旭之を将来有望な選手としてテレビが追うこともたまにあるくらいなのだ。
私のいとし子はなんと強く人気者なのか!私も嬉しくなる。
「くものために頑張ったんだ。ほら」
そう言って、旭之は県大会のメダルを私の首にかけてくれた。
キラキラと輝くそれを、私は二年の時にももらっている。程よく重いメダルだ…。私の為に。
私はさらに感動して旭之に抱き着いた。
「ありがとう旭之!!」
そうしていると、控室から人が出てきては、私達を見て声をかけていく生徒が近寄って来る。
「あ、くもさんこんにちは!」
「こんにちは!また熱々ッスね!」
そう言って笑われるが、私は特に照れもせず挨拶し返す。
「こんにちは」
「くもさんってホントいつみても綺麗ですよね。旭之がうらやましいっス」
「こんな綺麗な人が近くにいれば、そりゃぁ女子も旭之の事諦めますわ」
「くもさん!今度俺とお食事でも!」
口々にそういわれたが、旭之は最後に私を誘った男子生徒の頭を叩いた。
「くもはやらん」
「食事くらいいいじゃねーかよー!」
「ダメにきまってるだろ」
「ずるいぞー!この!」
小突き合っているのがおかしくて私は俄かに笑った。
それにつられて皆笑ったが、どうにも皆の顔は赤く、旭之は少し不機嫌になっていた。
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「ほんと、男だとは信じられないっすよね…」
「そうだなぁ」
「やっぱ付き合ってるんですかね?くもさんと旭之先輩」
「ん〜、まだ付き合ってるとは聞いてないけど…とりあえず高校卒業してからじゃないか?くもさん社会人だし」
「まぁ、そうですよね…、同性愛で、歳の差…か、でも、くもさんのあの美貌なら俺もちょっとアタックしてみようかな…なんて」
「やめとけ、旭之に殺されるぞ」
「旭之先輩、くもさんに関してはめちゃくちゃ怖いっすからね〜」
「…でも、くもさんって謎だよな…、社会人て言ってるけど何の仕事してるこか教えてくれないし、髪も白くて…綺麗だけど、ちょっと怖いっていうか…」
「染めてんじゃないですか?案外モデルとかやってたりして」
「ん〜…どうだかなぁ〜…」
この年頃の子はこそこそ話も尽きないようだ。
怪しまれないように、私は身の振り方に少し悩んだのだった。
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