13
はじめの日にアルベリックは言った。
「暫くここに泊まるって、おばさんたちには電話しといたから」
「はぁ!?勝手な事言うなよ!俺は帰る!」
「ノン、俺を好きになるまでダメだ」
こんな時だけ発音よく返すな!と怒鳴りたくなる。いや、怒鳴った。
だが、アルベリックはただ笑うだけで、聞いてくれない。
俳優やってる奴がこんなことしていいのか!!?と言っても、問題ないと言うばかり。
それに、テレビを見た限り、こいつはハリウッドから帰ってきてから、暫くは休暇を取っているらしい。
テレビに出てる奴が目の前にいるのもなんか違和感があるが、その休暇って言うのを俺を監禁することに費やしていると言うから、頭がおかしい。
どちらにしても、俺には逃げ道が無くなっていった。
俺の母はアルベリックを信用しているし、麻綾もアルから言われれば、信用してしまう。そこが幼馴染の恐ろしいところだ。俺とアルベリックが泊りがけで遊んでいるだけだと。
携帯は取られた。服も…。
服は箪笥にしまってあるが、俺が自分で着替えることはできない。
風呂に入るのも、トイレも、食事も。
全てアルベリックが世話をした。
「しの、あーん…」
毎日、毎食、手作りの凝った料理を俺の前に出してくる。さすがフランス人のハーフ…とでも言うのか、料理は最高に美味い。
「……」
でも、今の俺の腹には入って行かなかった。
「食べないと、またトイレに行けないぞ?」
「…っ」
「そうそう。いい子だ、信夫」
その一言はまるで魔法の様だ。別に今尿意が無くても、後々考えると、恐くて仕方ない。
きっちり、三食食べ、トイレをさせてもらう。
着替えは、ゆっくり全裸に剥かれ、じっくりと、舐めるように見られる。
毎回性的な事を思い浮かぶようなそんな視線だが、そうして事に運んだことはない。
内股を撫でられたりはしたけど、それだけだ。
「震えてる。恐い?大丈夫だよ信夫、俺は優しいから」
涙目で怯える俺をアルベリックは優しく抱きしめ、服を着せていく。何度も暴れるが、首輪の鎖が短くぴったりベッドヘッドにつなげられているから、大したことはできない。
寝る時は手足を拘束して、そのまま抱き枕の様に抱かれて寝た。到底寝れるものじゃない俺は、不眠症になった。
それに追い打ちをかけて、風呂はもっと恥ずかしい。
初めての時には、足と手を拘束され、されるがままに体中洗われることに嫌悪し、吐いた。
「やだっ…やめろ…っ!」
「洗わないと汚いよ?」
「さわるな!変態!!」
同じことを幼稚に言うしかできなくなる。真っ青なまま自由にならない手足でばたばたと風呂場内を逃げる俺は、酷く哀れだろうか…。
「大人しくしてたら、明日は一人でトイレに行かせてあげる」
ハッとして顔を上げる。
「…ほ、ほんと?」
「嘘は言わない」
そうして、俺は抵抗を止めた。目を瞑って何でもない様に我慢する。
わざとらしく股間を滑る手も、乳首を摘まむのも我慢した。それにアルベリックも長くねちねちとやるよりは、あっさりと遊んでいくようで、性的なモノは少ない。
全て綺麗にされて、湯船に一緒に浸かる。と言っても俺は手足が拘束されているから、アルベリックが抱えて、沈まない様にしている。
惨めだ…。
こんなの耐えられない。
体が温まる静かな一時に俺は涙した。
逃げたい。
こいつから逃げたい。
「信夫は恥ずかしいだけだよ。大丈夫、俺しかみてないし、俺しか知らないから。いいでしょ?」
自分だけに無防備で恥ずかしいだけだから、大丈夫だと言う。
確かに大衆の前でこんな羞恥な行為をしている訳ではない。
でも、…だけど…。
「大丈夫だよ、俺は信夫が好きだから」
好きだから。
大人しくしていたら。
好きだから。
いい子にしてたら。
好きだから。
恥ずかしくない。
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