10
「…ふっ…アハハハっ!!」
それまで無言で俯いていたアルベリックがいきなり笑い出した。
驚いたのなんのって、暫く言葉が出なかった。だって今は笑う所じゃない。
「そう言うと思ってた。まったくその通り言うから、おかしくなったよ…くくっ」
「…は?」
「ようは優しく断って、早く家に帰りたいだけだろ」
「そ、そんなこと言ってないだろ?どうしたんだ、アル?落ち着けって―――」
ギクリッとして震えそうになる喉を必死に動かし、見透かされていたような心を隠した。が、アルベリックは余裕に笑みを見せたかと思うと。ふと無表情になり俺の頬をするりと撫でた。
「落ち着いてるよ、信夫」
底冷えするような低い声で言う。
「落ち着いてないのは、しのだろ。…ほら」
頬を撫でる手が俺の唇に触れる。ハッとして口を解いたが、下唇にはくっきりと歯形が残った。
追い詰められた俺の癖が、また出ていたようで、アルベリックは言って唇に指を這わせる。
「もうずっと前から好きだったんだ。出会ったあの日から。だから、しのの考えそうな事は全部わかる。例えば―――」
本当は俺が嫌いだ…とか。
「き、らいじゃねぇよ…俺は、今まで通り…友達に」
と切れ途切れに言った言葉に説得力なんてものはない。アルベリックは俺を見下す様に笑う。
「この寝室を見て、友達で居たいと思うなんて、それこそあり得ないだろ」
「それは…」
「いいよ無理しなくて。俺がこの部屋を作ったのは、……まぁ、確かにしのの部屋だと思うと興奮もしたけど。何より、しのが見慣れた所だと安心するだろ?」
どういう意味だろうか。俺が安心する寝室を作って何にするのか?
「だって、ここ。今日からしのの家だからね」
アルベリックはほんのりと嬉しそうに笑うと、俺の首に何かを付けた。
「…なに…?」
ヒヤリとした感触にブワリッと鳥肌が立つ。
鉄かなんなのか、とにかくがっしりした首輪だ。少し重く頑丈な鍵付。犬がするような奴じゃない、漫画とかにでてくる、奴隷がするようなものだ。
ウソだろ。
こんなの絶対犯罪だ。
「…なんだよこれ…外せよ」
「ダメだ。信夫は逃げる」
「逃げない」
「逃げる。絶対にな」
チャリッと鎖も付けられたら、本当に奴隷になったような気分で、心底吐き気がした。
「…俺たち、幼馴染だろ…。運動会も…学校祭も一緒にやった仲だろ!!?こんなことして、おかしいぞお前!!」
俺も限界だった。これ以上この頭がおかしい男とはいたくない!
幼馴染だと思っていた。友達だと。
そりゃ、嫉妬とかもあったけど、ここまで変な奴だと思わなかった。
絶交だ!絶対!警察に突き出してやりたい!
その時の俺は友達だったのに、悲しいとか、そんな事よりも怒りの方が勝っていた。
後から思えば、なんで悲しくなかったのか…。それは心のどこかで、最初からこいつを警戒していたからなのかもしれない。
クリスマスの夜に心臓をぶち抜いた。天使の…こいつの弾丸を警戒していたのだ。
現に今、それが原因の様に心臓がズキズキと痛んで止まない。
「そうかもね。でも、しのが悪い」
「何がだよ!俺はなにもしてねぇだろ!?」
声を荒げ、首に嵌る鉄を取ろうともがいた。
「俺の気持ちを知ってて、無視し続けてたんだろ」
「そんなことねぇって、知らねぇよ!」
「じゃぁ、これから教えてやる」
不敵に笑うアルベリックは、たまらず殴ろうとした俺の手を取って捩じり上げる。
「いッ!?」
グギッとした腕の痛みに呻くも、そんなことはお構いなしに、もう片方の手も取って枷に嵌めてしまった。
後ろ手に組むように止められ、上半身がもぞもぞとベッドの上を這う。
「てめっ…」
そんな俺を満足そうに見下ろし、アルベリックは俺の首輪を引っ張った。
首が締まらない様に、あわててついていくと、腰を抱かれ、足が浮き、縦抱きにされた。
「まずは、ご飯を食べないとな、…しの」
うっとりと言うと、俺を食卓テーブルの椅子に座らせ、首輪の鎖と両足を椅子に縛り付けていった。
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