06
だが、家に帰っても、何も手につかず、頭もキスのことでいっぱいになる。
あの時は怒りや戸惑いや嫌悪が激しかったが、少し冷静にモノを捕えることができるようになった。
(アルベリックは何を思って、俺にあんなこと…)
男同士だ。今まで女しか見てなかったから、何とも言えないが、嫌だった。
麻綾の事もある。
アルベリックは友達だ。
それは揺るがないものだったのに、アルベリックが俺にキスをした事で崩れたモノは、そのすべての様に思えた。
俺が恋した、あの時の天使ではないアルベリックを好きになることも無ければ、恋愛対象として見ることも無理だ。
それに、あのキス。
短い間だが、すごく上手かった。
モデルで俳優で、スターだ。いろんな女と遊んでいるのだろう。
クリスマスがなんだ。俺は奥山と過ごすのがほぼ決定している。
俺をからかったのか…。
背が少し高いくらいの、特別顔が綺麗と言うわけでもない俺を哀れに思ったのか…。
麻綾から来たメールを返し、暫く自室のベッドでごろごろと考えていると、次は着信を知らせる音楽が鳴る。
見れば、アルベリックからだった。
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出る気はなかった。
今出ても何も言えないだろうし、何も聞きたくない。
だから無視して、数日間、奥山とそれなりに話をしたり、隣に座って講義を受けたりしていた。
麻綾の事は半場諦めていたから、すんなりと報告でき、「よかったじゃん!おめでとう!!…私も早くしないとなぁ…クリスマスに間に合わない」と溜息を吐いていた。アルベリックへの告白だろう。頑張れよと言って苦笑する。
その数日間、アルベリックから着信やメールが来ていたが無視を続けた。
それがいけなかった。数日後、彼女ができたことでうきうきしていた俺は大学前まできて、そこでアルベリックに会った。
変装していたから本人とは気が付かれないが、背も高く、骨格の整った彼はマスク越しでも十分に人目を惹いている。
何やってんだ!?と思う前に逃げることが先決だった。
クルッと回れ右して、不振がられないように何気なく帰ろうとしたが、アルベリックはいつの間にか俺のすぐ後ろに来ていて、ガシッと手を取ると、近くに停めてあった車に俺を詰め込んだ。
「なっ、なに―――ッ」
何か言う前にバタンッと閉められたドアはそれっきり、押しても引いても開かない。
チャイルドロックか!?
反対側も開かない。
アルベリックは無言のまま運転席へ回り乗って、車を運転し始める。
「俺、大学あんだけど…止めろよ」
心臓が不安にドキドキと五月蠅いが、冷静さを装って、聞いた。
というか、なぜ幼馴染にこんなに緊張しているのかわからないし。ある程度の信頼はあったから、無駄に暴れるのを早々に辞めたのだが…。
「ダメだ」
「なんで…だいたい、どこ行くんだよ」
俺をバックミラー越しにチラリと見たあと、無表情にアルベリックは言った。
「俺が借りてるマンション」
「はぁ?お前、おばさんの所にいるんじゃねぇの?」
「いや、別に借りたんだ」
てっきり、アルベリックの母親が一人暮らししている一軒家に帰国後帰ってると思っていたが、違うらしい。近いのにわざわざマンションを借りるだけの金があることが羨ましいぜ…。
「へぇ…。で、そこに俺を連れてってどうすんだ?」
「……別に、ただ、見せたかっただけ。しの、この前帰っちゃったから」
そんなことで、わざわざ大学まで迎えに来て、拉致紛いみたいな事をしたのか…。
呆れた様に溜息を吐いて、俺も聞きたいことがあるから、ちょうどいいと。その時は思っていた。
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