「このような夜分に自室などに御呼び立てしまい申し訳御座いません、しかしながら本当に来ていただけるなんて喜ばしい限りだ。確か、ワタクシはアナタにお願いしましたがやはり来ていただけるかどうかなど確かな自信はありませんでしたからね。これでワタクシは気弱な人間なのですよ。そうは見えないと、それならワタクシは上手いこと取り繕えているということです。サァサァ、どうぞお入りになってください。何ともしない部屋では御座いますが格好を付けさせていただきたい、椅子の一つや二つアナタの為に引きましょう。さぁ、お座りに。夜は冷える、薄暗い廊下などを歩ませてしまったこと此の身が痛みます。どうぞ、紅茶などで温まっていただきたい。淹れて間もないので未だ熱いものです、火傷にはお気を付けて。良かった、アナタが来てくださったのでその紅茶もぬるく渋くなることを免れたことです。砂糖は? ミルクは? ええ、アナタの好いままに。そうそう、紅茶にはカフェインなるものが含まれていますね。寝る前には適さないやもしれません。けれど、もしかしたらワタクシの話はアナタにとって退屈極まりないものかもしれない。そうとなれば眠くなってしまうかもしれない。都合がよろしいかもしれませんねぇ。ええ、ええ、話があるのです。勿論、話が。用件があります。そうして勿論それはアナタに。勿体ぶるのは如何なものか、はっきり、すっぱりと言い放ってしまうのがよろしいのでしょうね。それとも焦らす方がお好みで? 言いましたでしょう、ワタクシはこれで気弱な人間であると。大乱歩だなんて呼ばれたことがありましてもワタクシはただの乱歩、ただの男で御座います。ええ、ただの一人の男で御座います。一人、人、真に人間であるかなどは定義によりますでしょうか。いいえ、今は置いておきましょう。此処にワタクシがいてアナタがいる、それで好いではないですか。良しとしましょう。ええ、つまり、そうです。今現在ワタクシの目の前にはアナタがいる。アナタが。結局これは焦らしているに他ならない、アナタをそうしてワタクシを。紅茶を飲んでください、ワタクシも飲みましょう。どうにも乾いて仕方ないこの喉を潤しましょう、言の葉を紡ぐに。ワタクシ、アナタを好いているんですよ。今生にて初めての恋のそれをアナタに向けているのです。おやおや、驚くのも無理はない。カップのことなどお気になさらず。割ろうが何をしようが、アナタに害さえなければそれでいい。火傷はしませんでしたか? アナタがよいなら、それで。話を続けましょう。ええ、つまり、ワタクシの恋のそれは打ち明けましたね。ええ、ワタクシはアナタを愛している。……ぁあ、何とも駄目だ。どうにも此の身が落ち着かない。けれど、そう、ワタクシはアナタを……。それで、それで、ワタクシはアナタを愛しておりますので一等の捧げ物をしたいのです。恋心は疾うに捧げていることでは御座いますが、目には見えませんからね。アナタの眼差しに晒すことのできるワタクシのそれを差し出したいのです。この思いの証に。用意したこれもまた、無駄にならずにすみました。少しばかり箱も包装紙も洒落たものにしておきました、サァその指先にてリボンをしゅるりと解いてください。アア、とてもどきどきとすることだ。心臓が。アナタに音が聞こえてしまいそうで、その脈打ちを感じさせてしまいそうで。例えば、アナタの鼓膜をワタクシの鼓動が震えさせてはいないでしょうか。例えば、アナタの肌にワタクシの巡った血潮故の熱い体温が伝わってしまっているようで。どうです、分かりませんか? 分かりませんか、ではどうぞリボンを解いて。ワタクシの、偽りや飾りの無い心を受け取ってください。心を。ええ、心の臓を。定義によりけり、今や仄かなからくり仕掛けとなってしまったワタクシが捧げることができる一等のものです。ええ、つまり、ワタクシはアナタを愛しているのです。どうか、受け取っていただきたいのです。アナタに。アナタに、ワタクシの心を……。どうか。――と、こういった告白なんですがどう思いますか谷崎さん。あの人はワタクシに思いを返してくれると思いますか……?」
「恋は男を馬鹿にするものですが、乱歩さんに対しても例外では無いというのに驚きましたねぇ。種を他者に明かしてしまうことも加え」
「あの人のことに関しましては言いました通り、気弱になってしまうもので。……それで、どうです、意見をお聴かせ願えますか……?」
「その身ひとつで告白なさいな、お馬鹿さん」
「お、馬鹿」
「見当違いな贈り物をするぐらいなら、言葉だけでよいのですよ。心臓ではなく、偽りや飾りの無い心からの言葉だけで。それで充分、受け取って頂けるでしょうねぇ。ね、そうでしょう御寮人様。隠れている、御寮人様。さて、では、後はお二人でどうぞ。ここまで私がしたのですからどうともなりますでしょう、お馬鹿さんたち」
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