6月21日、木曜日。午前10時55分。

今日は部長の方から電話があって、休むように言われた。丁度社員全員に順番で有給を取らせたかったとのことで、私は快く承諾した。私の体調はと言うと、昨日彼に汗を流せばと言われた通りなのかなんなのか、大分良くなっていた。朝起きた時点で熱を測ると、37度の微熱にまで下がっていたのだ。昨日初めてまともに体を重ねてしまった気恥ずかしさから、私はまともに彼が見れないでいるが、彼はと言うと全く気にしていない様子でお酒を飲んでいた。ボトルを見るとGINと書かれている。ジンね・・・彼に似合うお酒かも。アルコールの強さと彼の依存性は比例しているのかもしれないと思った。

「傷の具合はどうかしら」

一昨日あたりから自分で傷の手当をし始めたので、私自身は彼の傷の具合がどうなっているのかわからない。少し心配になって聞いてみると、「もう抜糸はした」と言った。「え?もう?」あんな酷い傷、早々簡単に塞がる訳がない。「ああ・・・回復力は良い方らしいな」「毎日ご飯に接着剤でもかけて食べてた?」「ククッ・・・お前も冗談が言えるくらい回復したらしい」皮肉に皮肉で返されて私は口を噤んだ。どうやら適わない男には何を言っても適わないらしい。

「今日・・・ここを出て行こうと思う」突然の報告に私は何も言えなかった。たった一週間、いただけなのに、ずっと前から二人でくらしていたような感覚に陥っていた。急にいなくなると、なんていうか・・・寂しい。「・・・そう」私は良い返事を考えた挙句、なんとかそれだけ返した。「寂しいか」「・・・うん」図星を突かれて俯く。彼は喉で笑うと、私の背中に腕を回した。つまり抱きしめられた。

「いつでも会いに来てやるよ・・・ただしその時は容赦しねぇから、覚悟しとけよ」

「な、なにそれ!」

耳元で囁かれた言葉の意味を正しく受け取って、私は自分の顔が熱くなるのを感じた。きっと耳まで赤いだろう。彼が私の顔を見ていなくて本当に良かったと思う。

「逃げたって無駄だぜ・・・いつか時が来たらお前の事を永遠に俺のものにしてやる」

「っ・・・」

急激に心拍数が上がって息が詰まった。なに、それ・・・。

「私、まだあなたの名前だって知らないし、好きだって言ってない・・・」

「今俺がお前に名乗ってやれる名はこの酒の名だ・・・」彼がローテーブルの上のボトルを指差す。ジン・・・それが彼の名前。「それに・・・」と彼・・・ジンが続ける。「今のお前の気持ちなんか知ったことじゃねぇぜ・・・花子。お前は必ず俺が必要になる。もう落ちてんだよ・・・てめぇは」「・・・自意識過剰よ・・・」「ついでにナルシストだ。どうだ」やっぱり適わない男には何を言っても適わないのだった。

「プロポーズの予約なんて、初めて受け取ったわ」

「俺もだ。はじめてした」

今日はやけに饒舌な彼が、舌打ちをしながらそう呟いた。


広くなった部屋を見渡した午後7時28分。

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