「さて、」と私は少々意気込みを入れてから立ち上がった。今日の予定はしっかりと頭に詰め込んである。今日は何でもうまくいきそうな予感がする。と言うのも、今日は予定時間より1時間も早く目が覚めてしまって、そして素晴らしい朝焼けを見られたからである。天気は快晴。世界中から元気を分けてもらったような気持ちで新しい一日を迎えた私は、特に何か特別な事があるわけではないのにとても機嫌がよかった。

「・・・どうした、気味の悪い顔をして」

「おはよう、スネイプ。朝っぱらから失礼な事しか言えないのね」

「ああ、おはよう。だが、あまりにもその、生き生きとしていると言うか」

「私だってこういうときもあるわ」

職員室でスネイプに出会い頭にとてつもなく失礼な事を言われたが、軽くスルーした。いつもならもうちょっと突っかかる私があっさりと話を終わらせたことにスネイプは至極不服そうな顔をした。面白くない、とその顔が物語っている。面白くなくて結構。私はニヤリと笑うと、自分のデスクの引き出しから本を一冊取り出した。

「あー、スネイプ?この間言っていた本だけど、家に置いてあるのを思い出したから届けてもらったの」

「ああ、そうか。すまない。助かった」

本を手渡すと、スネイプは少し機嫌を直したようだ。しかし気になる事があったのか眉間に皺を寄せて首を傾げて見せた。

「実家暮らしだったのか?」

「いいえ、一人暮らしよ。私実はここに来るまではロンドンで雑貨屋をやっていたのよ。お店は友達に任せてきたから大丈夫。この間も上々だと言う内容の手紙が来たし・・・。あ、でね、その本はたまたま一冊だけお店に残っていたのよ。友達に手紙を出したらすぐに送ってくれたわ」

「そう言う事か。知らなかった」

「教えてないしね」

そう言えば落ち着いたら居住スペースを明け渡す予定だったなと思い出して手帳を取り出すと、そこに“引越し”と書き加えた。

「もう朝食の時間だな」

スネイプが部屋にかけられた大きな時計を見てそう言ったので、朝食の席でスネイプに引っ越すのにいい場所がないか聞いてみようかと思った。


朝食のオートミールを突っつきながら隣のスネイプに「さっきの続きなんだけどさ」と声をかける。スネイプは口に入れたスクランブルエッグをもぐもぐと咀嚼して、飲み込んでから口をあけた。「なんだ」

「私今住んでるところを友達に明け渡そうと思ってるのよ。お店の二階が私の自宅なんだけどね、毎日通勤するのも大変だし、譲った方がやる気が出ると思って。でね、特に住む場所の希望は無いんだけど、どこかいいところを知らないかしらと思って」

「生憎私はあまり出歩かん。あまりそういったところは知らない」

「ま、そうよね。家なんてあんまり帰らないし、実家にでも戻ろうかしら」アパートを借りるとなったらお金もかかるしなあと言いながらオートミールを口に運ぶ。あー、でもそしたらそしたで帰った時お父さんとお母さんが煩いだろうな・・・。

「いつまでも家に居ては両親が心配するだろう」

「そうね・・・。前帰った時なんか仕事はどうだとかいつ結婚するんだとか散々言われたわ・・・おちおち論文も書けないわよね」

「そうだろうな。・・・あー、もし、良ければだが」

相槌を打つとスネイプはもごもごと言葉を濁した。「なに?」カボチャジュースを手に取って先を促す。「あー・・・もし、君が良ければ、私の家に来てはどうだ?どうせ休みの間しか帰らないのだし、スピナーズ・エンドは静かなところだ。研究や論文を書くのには丁度いい」

「えっ?いいの?」

「私は構わないが・・・君が迷惑じゃなければ」

「そんなことないわ!ルームシェアって一度はしたいと思っていたのよ!ありがとうスネイプ!早速友達に手紙を書くわ。引越しは次の長期休暇の時でいいわね?」

「ああ」

新しい住処が手に入った。朝感じていたいい予感とはこのことだったのかと思っていたが、実際にスネイプの家に行った時には町の静けさと家の雰囲気にどこまでじめじめとした人なんだろうと思わずには居られなかったのだった。


そして引越し当日。私はまとめた荷物に姿くらましをかけ、手荷物一つの身軽な格好で下の店に下りた。

「じゃあ、もう行くわね。はい、これ鍵」

「本当にいいの?」

「ええ、いいわよ。私のお店を継いでくれているんだもの」

友達は感激に瞳を潤ませて私の手から鍵を受け取った。

「ここまでしてくれたら、私も引くに引けないわね!このお店は私にどーんと任せなさい!さらに立派にして二号店・三号店も作っちゃうんだから!」

「いい意気込みね。でも、もうすでに私のときよりも客足も売り上げも増えているし、私はもう安心してるわ。あなたに譲ってよかった」

「もうっ、嬉しい事言ってくれるわね!ほら、これ、餞別よ」

彼女は私に紙袋を持たせると、「マドレーヌ焼いてきたの!」と言った。私は素直にお礼を言うと、「また遊びに来るからね」と言って鞄から古びたゴブレットを取り出した。移動キーだ。約束の時間まであと1分。「滅多に家には居ないと思うから手紙はいつもどおりホグワーツに出してね」「ええ、わかったわ」「それじゃ、また」「またね」挨拶を済ませると、丁度時計の短針が動き、ぐにゃりと視界が歪んだ。思わず目を瞑る。体が引っ張られるような感覚がなくなって、目を開けると、そこにはスネイプが立っていた。

「ようこそ。スピナーズ・エンドへ」

「今日からお世話になるわ」

「長期休暇の間だけだが、こちらこそ、よろしく頼む」

スネイプと握手を交わしながら、なんだかスネイプと同じ家に住むって奇妙な感じだなあと今更ながらに思った。だがしかし、後の祭りと言うものだろう。私は頭を振って、私にと与えられた部屋に姿現しをかけ、家具類などをレイアウトした。スネイプの家に住んでいるといったら、みんなはなんて言うだろうか。


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