「あー・・・」

私、花子・スプラウトは廊下の隅っこで頭を抱えていた。
頭を抱える原因となったそれは廊下に散らばったまま。いくら見つめたところでそれは元に戻る気配は無かった。

「仕方ない・・・」

私は杖を取り出してどこぞの魔法薬学教授の十八番を唱える。「エバネスコ」するとたちまち廊下に散らばったそれは綺麗さっぱり無くなって、私は溜息をついた。いっその事悩みの種も消えてしまえばよかったのに!
私は来た道を引き返して走った。途中何人かの生徒たちに声をかけられたが、それに返す間も惜しんで研究室に戻る。

「ああ・・・せっかくストック用にと作ったのに・・・」

また同じ手間をかけなければならないのかと肩を落として小瓶をいくつか揃える。
スネイプに魔法薬を調合するための材料を頼まれており、先ほど地下へ降りるため廊下を歩いていたらピープズの妨害に合い全て割ってしまったので大慌てで取りに来たのだった。
チラリと時計を見て私は飛び上がった。「やばい!もうあと5分しかない!!」泣きそう。

スネイプは時間に遅れたらまた減点をすると言っていたし、これ以上減点されては教師としての面目も丸潰れだ。私は助教授だけれど、一応教師だ。私にもプライドくらいある。
忘れ物はないかと再度点検して今度はバッグの中に小瓶を割れないように詰めると、私は部屋を飛び出して走った。ホグワーツ内で姿くらましと姿現しが出来れば良かったのにと今日ほど強く思った事は無いだろう。箒で飛ぼうにも私はそんなに早く飛べる箒を持っていないし、煙突飛行もフルーパウダーを切らしているので使えない。
もう息が苦しくなっていたが、幸いな事にスネイプの研究室が地下で私の研究室が1階だったので、あと少しの距離、と自分に言い聞かせて脚を動かした。


「花子・スプラウト、10点減点」

「ゼェ・・・ゼェ・・・そんな、・・・ゲホッ」

かくして、私はスネイプとの約束の時間には間に合わなかった。でも、たったの1分なのに!
私は黒い革張りのソファに勝手に腰掛けて項垂れた。ただでさえ若くないのに、滅多に運動をする事が無い体に全力疾走をさせるのはやはりよくなかったらしい。額から流れた汗が顎まで伝ったのが判った。バッグをローテーブルの上に置いてローブを脱いでブラウスのボタンを二つ外しくつろげる。幾分か涼しくなって呼吸も楽になってきた。
スネイプはそんな私を見ていて顔をしかめていたが、私が置いたバッグを手にとって中を弄り目当ての小瓶を全て取り出すと、それを持ってどこかに行ってしまった。部屋の外に出て行ったスネイプを見送ってから私はソファに倒れこんで目を瞑った。ようやく完全に呼吸が落ち着くと、今度は喉が渇いてきた。

「おい、どうした、」

「!」

突然声が聞こえたので焦って飛び起きると、焦った私と同じくらい焦ったような顔をしているスネイプと目が合った。

「え、どうもしてないけど」

胸に手を当てながら私は答える。スネイプは「紛らわしい事をするな」と吐き捨ててから持っていたグラスを一つ私に手渡した。「ありがとう」と言いながら受け取ると、スネイプはそこで初めてふっと表情を和らげて私の隣に座った。

「先ほどドラコが我輩のところに来たのだが・・・花子・スプラウトがピープズにからかわれて鬼のような形相をしていたと言っていた」

「えっ、やだ、見られてたの?」

一部始終を見られていた事を知らされて私は焦る。スネイプは珍しくクツクツと笑っていた。

「手に持っていた小瓶が落ちて中身がこぼれてしまった後、すぐにピープズは笑いながらどこかに飛んでいってしまったようで、それから君は少しの間固まるとすぐに廊下を掃除して今までに見たことが無いくらいの速さで走って行ったらしい」

私は何も言えずにスネイプが入れてくれたルイボスティーに口を付ける。乾いた体に良く染み込んだ気がした。

「先ほどの減点は廊下を走った事に対してだ。往復で10点。教師たるものが率先して悪い手本をしないように。そして、あの材料たちのすばらしい精製技術に50点加点。薬草の加工はおばのポモーナ・スプラウトよりもはるかに出来がいい。そして我輩に惜しげもなくその技術を提供してくれた事にまた50点加点しよう」

喉元に残っていたルイボスティーのおかげで私が咽て咳き込んだのは言うまでも無い。

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