「おはよう花子」

「おはようございますブラックジャック先生…」

あの一件から、朝の挨拶はハグをする決まりになった。急に抱き合った私たちを見てピノコちゃんが目を丸くして驚いている。もともと丸くて大きい目がもっとまん丸で大きくなっている。

「せ、先生も花子たんも何やってゆのよさ!!奥たんを差し置いて〜!」

正気に戻ったピノコちゃんが酷い顔で癇癪を起こした。そんな彼女にブラックジャックが説明をする。「これも一種の治療だ。彼女が早く慣れるように、なるべくスキンシップをする事に決めたのさ。ピノコも同じようにしてやってくれ」ピノコちゃんは「な〜んら!」と安心した顔をして私に抱きついてきた。可愛すぎて卒倒しそう。ピノコちゃんの頬に自分の頬を寄せていると、嫌な顔をしている先生と目が合った。「なるほど。そういうのも有りか。私とはまだやっていないぞ」ええ〜…。
ピノコちゃんから離れると今度は宣言通り先生に捕まって頬をあわせる。これじゃあ心労は直らないと思います先生…。

しかし日常生活ではそのスキンシップ以外では、ブラックジャックが私に過度に関わる事は無かった。会話は必要最低限だし、私が医学書を読んでいてどうしても理解できない所が出てくると質問をしに行ったりとそれくらいだった。
私が一日のうちで一番傍に居るのはピノコちゃんで、傍にいるというか見守っているというかそんな感じだった。ピノコちゃんは何故か私の事をえらく気に入っていて、何かと世話を焼いてくれたりしてくれたので、どちらが家庭教師なのかいまいち分からない不思議な感じだった。必然的に私がこの家で一人きりになる事は無く、必ず2人のうちのどちらかが家にいた。先生が外出している時はピノコちゃんが家にいたし、ブラックジャックが家にいる時のみ、ピノコちゃんは買い物に出かけた。私が外に出る事を躊躇っているから、そんな面倒な事をしなくちゃならないその状況に、私はまた悩みのタネを一つ植えた。
これは良くない。外に出なければ。
外で鼻歌交じりに掃除をしているピノコちゃんを見て、私も手伝わないと、と玄関に向かう。

「どこかに行くのか?」

…と、ドアノブに手をかけたところで呼び止められた。ブラックジャックだ。驚いて飛び退いてしまったが、私はドキドキしてる心臓を宥めるように胸を撫でて「ええ…」と返答した。

「ええ…外に。ピノコちゃんが掃除をしていたので、手伝おうかと」

先生は少しだけ驚いた顔をして、それから玄関のドアに片手をついて私の行く手を阻んだ。

「まあ…それはピノコに任せておけばいいさ。おまえは別に無理して外に行く必要はないだろう。まだ安定していないようだし、何かあってからでは遅いしな」

先生の言うことは最もだったが、外に出ることは別に悪いことではないだろうと思う。今まで出るのが嫌だったのに、出てみようと思った時点で良い兆候だと思ったのだ。

「でも先生…」

「でももへちまもない」

先生はぴしゃりとそう言うと、私の手を掴んで引き寄せた。

「さあコーヒーを入れてきてくれ」

「いいな」と目を合わせて言うと、先生はぱっと手を放して部屋に戻ってしまった。


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