ブラックジャックの書斎の前に来た私は緊張感でドキドキ言う心臓を撫で付けるように胸を一撫でして、ドアをノックした。「どうぞ」許可が下りたので一声かけてからドアを開ける。「花子です。本を返しに来ました。次のものを借りたいのですが」

中に入ると、ブラックジャックは二冊の本を手にしてこちらを向いた。

「この部屋のドアをノックするのはあんたしかいないからな」私が驚いた顔をしていたのか、ブラックジャックはそう説明した。なるほど。想像はつく。

「次はこれなんかが良いだろう。関連付いているからしっくりくるはずだ。何か気になる言葉が出てきたらこれで調べなさい」

ブラックジャックはそう言うと、私の手から本を攫って、代わりに二冊の本を乗せる。
そのうち一冊は辞書みたいなもののようだ。ものすごく分厚くて重たい。ずしりと手に乗った重みに慄いた。

「そっちの方は暫く返さなくて良いぞ」

「ありがとうございます…」

失礼しますとだけ言って、必要最低限の会話を終える。部屋を出ると、ピノコちゃんが待ち構えていて、想像もしていなかった光景に思わず飛び退いた。ダンッと背後のドアにぶつかる。

「おいおいどうしたんだ…」

部屋の中からブラックジャックが声をかけてくる。少しだけ開いたドアのために、私は場所をあけた。

「花子たん!こんな時間に先生に何の用事だったのよさ!」

どうやらピノコちゃんは憤慨しているらしかった。

「二人きりなんてだめれちょ!ピノコと一緒に行く事!」

ピノコが怒っている理由にいち早く気が付いたブラックジャックが「二人とも…早く寝なさい…」と頭をかいた。そうか。ピノコちゃんはブラックジャックの奥たんなんだっけ。私みたいなのが夜更けに彼を訪ねることが気に入らないのだ。少し微笑ましい。

「ピノコちゃん、わかった。今度夜更けにブラックジャック先生を訪ねる時は、まずピノコちゃんに声をかけるね」

「わかったのなやいいわのよ」

ふんっと態度では示しているが、顔は嬉しそうだ。あまりに微笑ましくてブラックジャックの方を見やると、彼は曖昧な顔をしていた。どんな顔って私には言葉では言い表せなかった。

「さあ、早く寝るんだ」

ブラックジャックは再び頭をかきながらそう言うと、今度はそのまま部屋に戻ってしまった。

「先生、おやしゅみなしゃい〜」

ピノコちゃんがドアに向かってそう言うのに倣って、私も「おやすみなさい」と声をかける。ドアの向こうからは「ああ、おやすみ」と呟くような声が聞こえてきた。

「花子たんもおやしゅみの時間なのよさ」

ピノコちゃんが私の手を引いたので、私は重たい本を片腕に抱えたまま歩くことになってしまった。ブラックジャックに借りた大切な本を落とすなんてしたら…。私は腕の感覚が無くなりそうになっても必死に本を抱え続けて、なんとか部屋までたどり着くことができたのだった。
ピノコちゃんは私が部屋に入るまでしっかりと見張っていた。「おやすみ」と言うと、ピノコちゃんは子供らしく可愛い笑顔で「おやしゅみ〜!」と手を振ってくれて心底癒された。
部屋に入るなり真っ先に本を机に置いて、私は手を振る。明日は筋肉痛になっているかもしれない。非力な自分を嘆いて、少し筋トレしてみてもいいのかもしれないと思ったのだった。


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