これはまだピノコちゃんがお料理のレパートリーが少ない頃のお話。


「花子たん花子たんー!お料理の練習してみたのよさ。食えてみてくえゆ?」

「何を作ったの?」

お風呂掃除をしていた私に声をかけてきたピノコちゃんは、ちょっと恥ずかしそうにして「いいかや!」と私を急かす。私は「すぐに行くね。ちょっとまってて」とシャワーのコックを捻って手に付いた泡を落とし、彼女の後を着いてリビングへ。
果たして私を待っていたのは美味しそうな料理…ではなく地獄絵図であった。

「………」

思わず絶句する。立ち尽くしたままの私に、席に着けとピノコちゃんは促した。鬼かな。

「ピ、ピノコちゃん…?これは…ええと」

椅子に腰掛けながら目の前の異臭を放つ料理?をまじまじと見つめる。真っ黒の液体状の何かにご飯が添えられている。このご飯は恐らく私が炊いたものであるので、きっと練習したというお料理?はこちらの黒い何かの方だろう。何を作ったのかは簡単に想像がつくが…。

「カレーライスなのよさ。6時間煮込んらの」

キラキラした目をして見てくるのやめて…。えっと、ていうか、これ私食べなきゃダメなの…?でもブラックジャックにバトンタッチしたところで恐怖度は変わらないな???間違いなくこれを食べる事は罰ゲームに値するだろうことが明白であるのに押し付けたとなれば報復が怖い。彼は案外根に持つタイプだし。

「早く!たえゆの!」

固まったまま動かない私に、ピノコちゃんは更に強い言葉で強要してくる。強要というかこれはもはや脅迫である。剣呑な目つきになってきたピノコちゃんを見てそう思った。
このまま動かないでいると凶器でも持ち出しそうな雰囲気のピノコちゃんに怖気づいて、私はとうとうスプーンを握った。震える手を叱咤激励してカレーライス?を掬い、口に入れて「…ん!!!」口元を手で押さえた。それを口の中に入れた途端、世界中の炭という炭を口に入れたような感覚に陥り、脳は危険信号を発する。視界がぼやけてきた…。これは劇物だ。人体に取り込んではいけない。吐き気を催すし、飲み込みたくない!!と頭では思っているのだが、ギラリと目を光らせているピノコちゃんの圧力に負けて、ごくり、と喉を鳴らして。…ここから私の記憶は途切れている。



頭が…いや、頭と言わず、体中が痛い。なんかデジャヴだなこれ。しかし私は一体…ううう、頭が痛い…何か思い出したくない記憶でもあっただろうか。

「!…気が付いたか」

私の唸り声を聞いたのか、ブラックジャックが傍に来て声をかけた。

「ブ、ラックジャック…先生…?」

目を開けると少しぼんやりとしている。暫くすれば治るだろうか。私は数回瞬きを繰り返した。おお…よしよし良いぞ、視力が戻ってきた。

「気分はどうだね」

「最悪です…ウッ!?」

ぱちっと最後に瞬きをすると、ブラックジャックの顔が良く見えた…のだが、黒と白に分かれた先生の前髪を見た途端、急に吐き気を催す。

「ぐ、う、っ、っ…」

「あんまり無理しなさんな。吐いてしまいなさい」

先生が私の背中をさすりながら袋を差し出してきたので、お言葉に甘えて吐き出した。胃液のすっぱさが鼻についた。

「〜〜〜!お、おえっ、げほっ…」

「全く……何故あんなものを食べたんだ?」

呆れた声色のブラックジャックが私の口元を拭いてからティッシュを差し出してそう言った。「けほっ…あんなもの?」ティッシュを受け取って鼻をかむ。次に差し出された飲み物を無理矢理飲み込んだ。吐いた後独特の嫌な味がまだ口に残っている。

「ピノコに聞いたんだが、あれの料理?を食べたらしいな」

記憶が戻ってきた。「…うぷ、」「……横になりなさい」ブラックジャックの手を借りて再び横になって、胸の上の辺りを優しくトントンと何度か叩いてもらうと、吐き気は収まった。

「花子は実験動物じゃないんだぞときつく言っておいたが…あんたもあんただ。自衛することも覚えなさい」

「はい…今度からピノコちゃんが慣れるまではですが、お料理する時は私と一緒にっていうルールを作りますね…」

「ああ、頼んだぞ。明日は我が身なんていうのはごめんだぜ」

私もまたこんな目に遭うのはごめんだ。


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