お互いにちょっとした事故だという解釈をして、それを確かなものにするために、オレ達は普段通りの生活を心がけた。
いつもの用に顔を合わせて、会話をして、食事をして、同じ布団で眠った。
あれ以来、オレ達の間にはいかがわしい出来事は無い。
花子からの必要以上のスキンシップまでも無くなったのが少し不服で、彼女が眠っている夜中に一度だけそっと抱きしめている。
本当はもっと触れていたいが、日中はハラさんの稽古があり会えない時間も増えた。
今大事なものに優先順位をつけて、逆算する。
最終目標は花子にフルバトルで勝利すること。そのためにはハラさんに教えを請わなければならない。
状況を変えるフルバトル。その申し出は自分からしなくてはならない。
花子が自分に有利になるように申し出たように。
勝負を有利に持っていくためには、その目標や理念、思想を全て明らかにして自覚し、行動しなければならない。
あの時の花子には強い意志があった。それが彼女の最大の強さだったと言えるだろう。
全てを壊して、このオレを手に入れるのだと。
それならばオレがする事は一つだけだ。全てを受け入れて、思いの丈をぶつける。
──花子の心が欲しい。



「花子、今日の夕食は何だ?」

いつもよりも大分早めに出かける準備をしながら、オレは言った。
少し考える素振りをした花子はゆっくりと答える。「ん〜そうねえ、今日は魚のフライとヤドンテールのスープかな」

「オレは今日はグラタンが食べたい」

「えーっ、買い物してこなきゃいけないじゃない」

「そんな時はバトルして決めれば良いだろ。いつもの事だ」

「まあそうね」



いつものやりとりで気が抜けている花子は、簡単に要求を呑んだ。
オレから一対一のバトルを挑んだのは、実はこれが初めてだった。
そんなオレの心境の変化に気が付いているのかいないのか、呆然とした表情でひんしのポケモンをボールに戻した花子は黙ってオレを見つめている。

「オレも少しは強くなっただろ」

負けるなんて微塵も思っていなかったのだろう。花子は苦し紛れに「あなたは初めから強かった」と嘯いて、自分で言った言葉に傷付いた顔をした。

「ハラのおっさんの弟子になる事に決めたんだ」

そう呟くように言うと、花子は半開きだった口を閉じた。

「また弟子に、とってくれると言ってくれたんだ」

黙って話を聞いてくれる花子に、オレは話を続ける。

「オレが変わったから、もう一度鍛え直せって」

花子の瞳には不安の色が浮かんだが、それを無視する。

「花子…あんたのおかげだと、オレは思ってる」

「そんなことは」

不安と焦燥を混ぜたような瞳が揺れる。口を挟みかけて、もう一度口を閉じた花子は、眉尻を下げた。

「オレはお前に会えて良かった。ありがとな、花子。お前があの時、オレを完膚なきまでに叩きのめしてくれて、オレを連れて帰ってくれて」

まあ最後まで話は聞いてくれよ。
何か言いたそうな花子を更に無視して、お構い無しに喋る。

「花子はオレの事を最初から認めてくれていた。ずっと、初めからずっと、オレを愛してくれていた」

息を飲む音が聞こえた。

「ずっとこの甘いぬかるみに浸かっていたい気持ちはあった。けどよ、あんまり我慢すんのも体に悪ぃだろ?」

花子の目の前まで行って、頬に手を添えてこちらを向かせる。今にも泣きそうな顔をしている花子に、オレはそっと口付けた。「言ったよな、覚えてろよって」

「オレはすぐにでもフルバトルで花子を負かすからよ」

「楽しみに待っててくれ」挑発のつもりで自分の唇を舐めると、顔を歪めた花子が約束の言葉を口にした。

「グズマ…バトルしよう」

だがしかし、次にフルバトルを仕掛けるのはオレの方だと決めているのだ。





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