ふと、虫の知らせのようなものを感じ取って目が覚めた。
あたりはしんと静まり返っており、暗闇と静寂が広がっていた。
隣にあるはずのぬくもりはなく、布団の熱を確かめると、花子は随分前にベッドから抜け出していたようだった。
静かにベッドを出て、リビングへ向かう。間接照明だけがついた薄暗い部屋の中で、小さな寝息を立てている花子は、ソファに深く体を預けていた。どこかに行ってしまったのかと焦りを覚えていたオレは長めの息を吐く。テーブルを見るとマグカップが置いてあるという事は、大方夜中に起きてしまってエネココアでも飲んでそのまま眠ってしまったんだろう。今夜は冷えるし。
苦笑して、マグカップを流しに入れる。
いつかやったように、花子を抱き抱えて寝室に戻る。起こさないようにそっと。無防備な寝顔だ。成人した男のオレと一緒のベッドで毎日毎日熟睡できるその神経がわからない。こちとら毎夜必ず一回は起きて花子を気にするというのに。
そっとベッドに下ろすと、あのときの事をまた思い出した。驚きに揺れた瞳は、その奥に何か隠していた。赤く染まる耳と頬をあの時は見ていないふりでやり過ごしたが、今はそれは出来ない。こみ上げて来る気持ちを少しだけ溢してオレは花子を抱き寄せた。体が冷えている。一体いつからあそこで寝ていたのか。
自分の体温を分け与えて、健やかなその寝顔を見ていると、安心感も相まってオレはすぐに意識を手放した。



願望があまりにも強かったのか、その日は花子を抱く夢を見た。
熱に浮かされた瞳で見上げられて、胸が高鳴る。
花子の手によって与えられた股間への刺激はこうして夢にまで見る程待ちわびていたものだった。
柔らかく豊かな胸に顔を埋めると、花子は声を上げる。お互い何も着ておらず、腰を押し付けたらすぐにでも挿入できそうだった。
夢ならばせめて最後までいかせてくれ。そうは思ったがやはり上手く行かないものである。高まるだけの熱と、ただただ聞かされる花子の嬌声。出来る事と言えば、目の前の柔らかい胸に吸い付くだけだ。先端を一舐めして口に含めば、より大きな嬌声が上がって、体が震えた。口に含んだまま舌で転がすように舐めれば、花子は体を捩る。「グズマくん!…あっ、や…あっ」熱に濡れた声で名前を呼ばれてはたまらない。「だめ、んっ、ふあ、グズマくん…!」自分のした事によって喘ぐ花子が愛おしい。もっと、もっとその声を聞いていたい。
舐めながら吸い上げると、一際大きい声があがった。「ひゃあ!!」その声があまりにも近くから聞こえてきたような気がして、目を開けた。
目を開けたという表現はその時のオレにとっては違和感の塊だったが、実際に目を開けると、目の前には花子の胸。オレはその片方の先端を口に含んでいる。まどろみを感じながら、オレは一度口を離して、胸の内側の方に吸い付いた。そのまま鬱血するほど吸い上げる。

「あっ、痛っ」

甲高い悲鳴を上げた花子は、オレの背中をトントンと叩きながら捲し立てた。

「違う!夢じゃないよグズマくん!大変!私が大変な事になってる!」

「…あァ?」

その言葉に、オレは漸く顔を上げた。
熱に浮かされたような潤んだ瞳と、上気した頬。肩で息をしている花子の顔を見て、それからゆっくり視線を落とした。
肌蹴た胸元にはオレがつけた鬱血の跡と、唾液でぬらりと濡れたその先端。

「……っ!」

やばい。そう思って、咄嗟に思いっきり目を瞑った。「わ、悪いっ…!」本当に悪いとは思っているが、体はやはり正直なもので、ギンギンにそそり立った自身を両手で押さえ込むようにしてオレは体を起こした。

「ち違うの…!」

体を起こしたような気配がして、花子がそう叫んだ。違う?違うって、何が?

「違うの、私がちょっと悪戯しようと思って、それで、あの、えっと」歯切れの悪い花子は今までに無くテンパっていた。「こんな事になるとは思わなくて」語尾を濁らせながらそう言った花子のその悲痛さはひしひしと伝わってきていた。
そろそろと目を開けると、佇まいを直した花子が遠慮がちに頭を下げた。「…ごめん」「オレも…悪かった」
伏せた目からはまだ冷めない熱が見て取れる。
そこには嫌悪や憎悪の色は無かった。
まさか。
少しの希望を抱いて、オレは口を開いた。

「な、なあ…」

「え、なに?」

声をかけると、花子は上目遣いでオレを見た。あああ本当にこの女は!頭の裏側あたりで何かが切れる音が聞こえた。

「続き…してもいいか」

期待に高鳴る胸と下半身を撫で押さえるが、花子の口から出てきたのは「はあ?」という素っ頓狂な声だけだった。
流石に…今のはまずかったか。

「あ、いや…」

言葉を濁して目線を外すと、視界の端で立ち上がった花子が踵を返して「…私とのフルバトルで勝てればね」と言い残し部屋から出て行った。
未だ興奮冷めらやぬオレは顔を覆う。一刻も早く熱を冷ましたかった。

「…ちくしょう、」

そんな事言われたら期待しちまうじゃねえか。





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