夜中に目が覚めた。
この所夜は肌寒い日が続いている。
隣に感じるぬくもりはグズマのもので、彼はぐっすりと眠っている様子だった。私から離れすぎて掛け布団が半分ずり落ちている。私は苦笑しながら布団をかけ直してやると、するりとベッドを抜け出した。
時計を見やればまだ時間は深夜の2時で、今から起きるにはまだあまりにも早すぎた。
仕方なく私はキッチンに立った。体が冷えているので眠れないのだ。こう言う時はエネココアに限る。冷蔵庫からモーモーミルクを出して、暖める。余談だが、エネココアの名前の由来はエネルギーココアからきているそうだ。エネルギーたっぷりのモーモーミルクに溶かせば効果抜群に違いない。なるべく音を立てないようにゆっくり丁寧にエネココアを作る。出来上がったそれを持って、ソファに座った。テレビは…音が気になるので見ないことにする。
あの外出の一件があった日から、グズマは毎日出かけるようになった。私の仕事が休みの日は私と一緒にいる事の方が多いのだが、それでも毎日疲れて帰ってくる彼を見るのはなんだか心が暖かくなる。それと同時に巣立ちの日を想像して少し悲しくなる。
彼は今、目標を持って生きている。毎日何かに励んでは、疲れた顔を少しも見せずに帰ってくるのだが私は知っている。彼の服を洗う度に、彼の寝顔を見る度に。努力の証がそこには刻まれているのだ。一時はかなり白かった彼の肌も健康的な色になった。食事の量を少しずつ増やしていっても全て平らげた。
彼はもう立ち直っているのだ。
薄暗い間接照明に照らされたエネココアの水面は、私の心を映したかのように静かな波紋を広げていた。暖かいエネココアを啜りながら、私はいつか来るであろうロスに備えなければなと思った。
毎日おはようやおやすみを言い合う事もなくなるのだろう。
元々一人で暮らしていたのに、リビングを見渡せば、薄暗いそこはかなり広く見えた。



息苦しくて目が覚めた。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
そう言えば昨夜は夜中に起きてエネココアを飲んだんだっけ…。しかしその後どうやってベッドまで戻ったのか記憶に無い。もしかしてあれは夢だったのだろうか。私の心を整理するための夢?
とりあえず起きて顔でも洗ってくるかと腕を動かすが、肘から上が動かない。それもそのはずだ。息苦しい原因がそこにあったのだ。
いつもより暖かいベッドの壁側、グズマが寄り添うように眠っているのは壁ではなく私だった。その逞しい腕は私の体に巻きついており、横に目をやれば厚い胸板が目の前にあった。顔を上げると、熟睡しているグズマの寝顔が目に入った。よっぽど疲れているらしい…。今まではてこでも私から離れて壁に寄り添って眠っていたのに、抱き枕と勘違いするほどには。
突然の接近に、胸だけではなく息まで詰まった。相手が寝ぼけてやった事とは言え、寝起きにこの刺激はあまりにも強すぎる。心臓が思い切り血液を送り出している音が聞こえる。この鼓動だけで彼が目を覚ますんじゃないかという程大きな鼓動から、私は目を背けた。
しかし…この状況は本当に何とかしたい。熱い思いに蓋をして、私は悪戯心を呼び覚ます。以前グズマを起こそうとした際に掛け布団をガッチリ掴まれていて引き剥がせなかった事を思い出した。この腕から抜け出せないのならば、彼を起こすしかないのだ。
さてどうやって起こそうか。どうせなら官能的な目覚めにしてあげたい。そしてもう二度とこんな事をさせないように、グズマの心に刻み付けたい。一種のトラウマのように。
どうやら寝返りはうてるらしかったので、私はグズマの方を向いた。肘から下はそこそこ動かせたので、グズマの腰を掴んで体を寄せ、少しずつ体を頭側にずらしていく。目の前にグズマの顔が来てもまだずらす。引っ張られたパジャマが突っ張って、ボタンが抜けてしまったのが大誤算だった。ここまでするつもりは無かった…。グズマの肩に手が届く位置まで来たので、私は更に体を密着させる。私の露になってしまった胸元に、グズマの顔が埋まった。うわあ、これはちょっと自分でやっておいてなんだがものすごく恥ずかしい、し、ちょっと興奮する。まじで、え、何コレ。えっちじゃん…。私の胸元に顔を埋めるグズマを見下ろして、私の胸は高鳴った。それにしても息苦しいはずなのにまだ起きないなんて。
困り果てた私は足を動かして、膝でグズマの股間を優しく撫でる。眠っていても勃起ってするんだろうか。
頼むから早く起きてくれ。そう願いながら撫で続けると、そこは徐々に熱を帯びて質量を増してきた。「ん…っ」身じろいだグズマが私を抱く力を強めて、腰を押し付けてくる。待っていよいよやばいのでは。完全に硬くなったそこが、私の足に押し付けられている。
顔を胸に擦り付けられて、見えてはいけないところが露出した。えっどうしてそうなった。グズマはそのまま私の胸に耳を当てるような格好で止まったのだが、鼓動を直に聞かれてしまう!とかそんなのが全てどうでも良くなってしまうような事が起こる。グズマの唇に、露出してしまった私の乳首が、触れてしまったのだ。

「あっ?!」

驚いたような嬌声が口から漏れる。しまった。待って、まだ起きないで。しかし私は絶望の淵に落とされる。私の声に反応したらしいグズマがむにゃむにゃと唇を動かしたのだ。

「ひ、ふ…ん!」

羞恥で顔が赤くなるのがわかった。硬くなった先端をやわやわと啄まれて、頭が真っ白になる。辛うじて声は抑えたが、それでも出ていないことにはなっていない。ぎゅうと目を瞑ると、涙が睫を濡らした感覚がした。
どうやらトラウマを植えつけられたのは私の方だった様だ。
もう二度と厭らしい悪戯しないから、お願いだからこの状況を何とかして欲しい。
こんな…好きな人にこんな事されて、でもお互いそんなつもりは無くて、この先に進展する保障も無くて、今確実に辛い思いをしているのは私の方だ。
今起きられても困るけど、起きて貰わないともっと困る。本当にどうしよう…。パニックにすら陥る私に、グズマは更に追い討ちをかけてきた。べろり、と暖かいものに先端を撫でられて、私の頭はショートした。「ああんっ!?」グズマはまだ眠っている。これ以上踏み込まれてはいけない。白旗を揚げて、私はグズマに声をかけた。「グズマくん!…あっ、や…あっ、起きて!」その間もグズマの口は私の乳首を含んだまま舌で舐める。「だめ、んっ、ふあ、グズマくん…!」声を抑える余裕も無く、私はグズマの背中に手を回した。下腹部が疼いて、ぷくりと愛液が染み出す感覚。こうなってしまったら理性が飛ぶ前に、何が何でも起きてもらわなければならない。

「グズマくん!…あ!!」

吸われて、思わず一際大きい声をあげてしまった。そこでやっと目が覚めたらしいグズマは睫を振るわせてゆっくりと目を開いたかと思ったら、乳首を舐めるのをやめて、その隣に吸い付いた。「あっ、痛っ」グズマは寝ぼけている。

「違う!夢じゃないよグズマくん!大変!私が大変な事になってる!」

「…あァ?」

背中をトントン叩きながら言うと、漸く覚醒したらしいグズマが動きをやめ、私の顔を見上げた。目に薄い涙の膜を張らせて顔を赤くしている私と、目の前の胸に交互に目線をやる。徐々に赤くなっていく顔と、更に質量を増して存在を主張する足に当たる熱。

「……っ!」

グズマはきゅっと目を瞑って、「わ、悪いっ…!」と起き上がって体を離した。解放された私は胸元を直して「ち違うの…!」と口走った。違うって、何が?一先ずグズマの自尊心を尊重して、グズマが私を襲ったという誤解を解く。「違うの、私がちょっと悪戯しようと思って、それで、あの、えっと…こんな事になるとは思わなくて」自分も眠っているとは言え、寝てる女性に淫行を働いたわけではないとわかったらしいグズマは、そろそろと目を開けた。

「…ごめん」

「オレも…悪かった」

もう言葉が出なくなって、私はそれだけをぽつりと溢す。
ベッドの上で座り込んで謝罪しあう姿はさぞ滑稽だろう。

「な、なあ…」

「え、なに?」

「続き…してもいいか」

「はあ?」思わぬ言葉に私は素っ頓狂な声を上げた。色気も怒りも無いただただ驚愕だけを表したその一言は、グズマを萎えさせるには十分だった様子で。しまった、という顔をしたグズマは「あ、いや…」と言葉を濁す。

「…私とのフルバトルで勝てればね」

また赤くなった顔を隠すように立ち上がって背を向けると、私はそう言い逃げして部屋を出た。おいしい水が飲みたくてキッチンに入ると、流し台には鍋とマグカップが置かれていて、昨夜のあれは夢ではなかったのだと知った。





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