一日中、何て言ったら良いだろうかと考えていた。
単独で出かけたいと、そう告げれば花子は一体どんな反応をするだろうか。
出かけることを拒絶し怒りと破壊の衝動に駆られるか、やんわりと拒絶してオレを軟禁するか。オレを束縛して監視したがるか、はたまた出て行きたいのならご勝手にと突き放されるのか。どの反応が来ても嫌だ。花子が仮にもし、オレに対して好意を持っていたとして、彼女はそれを露にした事が無い。どうぞご勝手にと冷たく突き放されるのが一番怖い。花子はそれをやりかねない女だ。
大の男がじれったくうじうじとしているのはどこからどう見ても情け無い。
ああ早く言わないと。ただ、どうやって言えば自分も花子も傷つけずに済むだろうか。
夕食を食べ終わった後、いつものように皿を洗う花子を盗み見て、逡巡した。
丸1日考えて分かった事が一つだけある。
これはオレには考えても無駄な部類の問題であるという事だ。
これ以上考えていても良い答えが見つかる保証が全く無いので、ぐっと口元を引き締めて腹を括る。

「なあ、」

ええいもうどうにでもなれ!

「明日は少し出かけてきても良いか?」

一瞬、花子の手が止まったのをオレは見逃さなかった。次の言葉が何なのか、花子の様子を観察する。しかし花子は、暫くして流しの水を止めると、「なあに?」と言った。オレの出方を窺っている様子の花子はその顔に薄い笑みを貼り付けている。

「明日は出かけてきてもいいか?」

花子の顔色の変化を何一つでも見落とさないようにしっかり見つめて、もう一度言った。
一瞬眉を上げた花子の顔は、どう見ても驚いた時の顔だった。

「?…どうぞ行ってらっしゃい」

不思議そうな顔を残しながらも、花子はそう言った。
想像していたどれとも違うその反応に、オレは怯んだ。
どちらかと言えばどことなく突き放すような感じだ。本当に?良いのか?という思いと、オレにはもう興味が無いのだろうかという焦慮と、花子の心が全く分からない焦燥でごちゃ混ぜになった感情を、唾と一緒に飲み込んだ。

「夕飯までには戻る」

代わりに言った言葉は酷く掠れていて、まるで自分の声じゃないみたいだった。



翌朝、朝食を食べるとオレはすぐに家を出た。
花子は普段通りの顔でオレを見送ってくれたが、内心が何を考えているのかわからない。
なるべく早く帰ろうと思い、目的地へ向かう足を早めた。
一番最初に探したのはプルメリだった。
オレの姿を見たプルメリは、目を見開いて「どこに行ってたんだい?」と言った。「いかがわしき屋敷が半壊していたと聞いて心配してたんだよ」

「ああ…」

どこから話そうか悩んで、結局初めから全てを話すことにした。
黙ってオレの話を聞いていたプルメリは、目を細めて笑った。

「ははは!何さその女…!滅茶苦茶だねえ」

たったそれだけの為に、屋敷を半壊させたって?それもたった二体でグズマの手持ちを全滅させて?
あまりにも意味の分からない話に、プルメリの笑いは収まらない。
自分で説明していて余計に感じた。
ブッ飛んでやがる。あの女は。

「だがよ…オレぁわからねえんだ。アイツが何を考えているのか、何を思ってオレと一緒に居るのか」

「ふっふっふ、こんなに分かりやすい事は無いと思うけどねえ」

目元の化粧が崩れるのを気にもしないでプルメリはハンカチで目元を押さえた。泣くほど笑うやつがあるか。
相棒と呼んでも良いほどのプルメリは存外容赦ない。

「その人が何を考えているかなんて、気にする必要は無いと思う。そもそも、その人は初めに言ったんだろう?グズマに幸せになって欲しいってさ」

コンパクトミラーを取り出して化粧を直し始めたプルメリは、なおも言葉を続ける。「良い顔になったね」そう言われて面食らったオレに、プルメリはまた笑った。



その後あの勇敢で小さな島巡りのチャレンジャーに出会い、再びバトルをした。それを見ていたハラさんがもう一度弟子に、と言ってくれた。
二人ともオレの顔を見て驚いていた。特にハラさんなんかはオレの心情の変化を見抜いていた。

「戸惑いを打ち破るのにも、稽古する事は良い事ですぞ!」

明日から早速来なさいと豪快に笑ったハラさんは、相も変わらず懐が大きかった。
昔のオレは、本当に大切な事に気が付きもしないで、足元だけを見て突っ走っていた。衝動に身を任せていたら、いつの間にか隣にはプルメリが居て、後ろにはスカル団の連中が居た。仲間は出来たが、この間オレは何も学んでいなかった。
ずっと学んできた花子とは間逆だ。
そんな花子に救われ、ここまでの変化をもたらしてくれたのはまさに幸運な事だった。なぜ花子がオレに執着したのかはわからないが、それでも花子のその気持ちに、感謝せずにはいられなかった。





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