「グズマ…バトルしよう」

ある穏やかに晴れた昼下がりの事だった。花子がそう呟いたのは。
あの時の事を連想させるその言葉は、オレにとって少し良くない言葉となっていた。
状況を変えたあの言葉。それが今、言われるとは。動揺を隠しながら、顔を上げる。「あぁ…?」花子はあの時のような無感情な無表情でオレを見ていた。「バトルしよう…」
いつもと様子が違う事にはすぐに気が付いた。
ポケモンの手入れに使っていた道具を置いて、「どうしたんだよ」と言う。ただならぬ雰囲気を感じたので一度ポケモンはボールに戻した。
以前公園で「バトルしよう」と言われたときは何とかはぐらかしたが、オレはまだ花子とフルバトルはしたくない。その勝負で負けてしまったら、今度はどう状況が変わるのかと、不安が過ぎった。
不安な顔が表に出ていたのか、真剣だった表情をふ、と崩して悪戯っぽく笑った花子は「私が勝ったら今日の晩御飯はクリームシチュー。グズマくんが勝ったらカレーライスよ」と言った。そういう、事だったのか…?花子の真意は読めなかった。とりあえず、理由を先に言ってもらえた事が自分的には大きい。このバトルに負けたら…などと考えずに済むからだ。

「なんだ…」

思いっきり安堵の溜息を吐く。その安堵を悟られまいと、腰に手をあてて「しょうがねえな」とニヤリと笑って見せた。「じゃあ、一対一で」と言うと花子はあからさまにガッカリしたような様子を見せたが、そんな事でフルバトルしてたまるかと言う感じである。
その日の夕飯の話はしたくない。



あれから花子の何かを決めるバトルは自分の中でブームになっているようで、悉く勝負を挑まれた。勿論今のところオレが全敗なのだが、それでも執拗に花子は勝負を挑んでくる。ポケモンバトルが好きなのか、俺を叩きのめすのが好きなのか。
バトルは勿論好きなのだろうが、どうやら今回の事に限っては違うようだ。このバトルの裏には別の意味がある。
花子のその“発作”はいつどこで起こるかわからない。
夕食を食べ終えたリビングで、花子がぽつりと呟いた。

「………ねえグズマくん。バトルしよう」

「…今日は何を決めるんだ?」

この時間帯だ。食器の片付け係を決めるバトルだろうか。
そう思っていたのに花子の口からはとんでもない言葉が飛び出してくる。

「そうね、私が勝ったらグズマくんを一時間だけ奴隷にしようかしら。性的な意味で」

「なっ!?」すらすらと何事も無いかのように飛び出したその言葉は本心では無いのだろう。ただ、ほんの少しでも彼女の事を意識してしまっているオレにはあまりにも刺激が強い。「なにいってやがる!」カッとなってそっぽを向くと、慌てた足音が聞こえてきて「嘘よウソ!本気にしないでよグズマくん」と笑みを乗せた声色が背後から降りかかってきた。優しくまわされる腕に、オレは苦虫を噛んだ。胸を掻き抱きたい衝動を抑えて絞り出された声は、オレが思っていたよりも悲痛だった。





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