グズマを誘拐してから幾日か経ったある日のこと。私は仕事が休みであったので、近くの公園にグズマを誘った。別にデートとかそういうのではない。ポケモン達の運動という名目だ。
そう、名目。
今日の目的は他にある。ポケモンバトルだ。
ポケモン達のコンディションは最高。手の内はもう知られてしまっているが、それでもまだ私達には戦略が残されている。前回とはまた違ったバトルを見せようじゃないか。
問題なのはどうやってバトルに持ち込むか…。ちらりとグズマを見やると、ポケモン達とボールをパスしあって遊んでいた。ポケモン達は楽しそうだ。
自分の手持ち達の方に視線を戻すと、皆キラキラした目で私の事を見ていた…。そうだよね。遊びたいよね。私はウエストポーチに手を入れて、ゴムボールを探り当てると、ニヤッと笑ってポケモン達に見せ付けた。期待に膨らんだ表情の彼ら。「これをどうしようか?…投げる?それとも跳ね返す?」と、そう言った所で、ついに我慢しきれなくなったポケモン達が一斉に私に飛び掛ってきた。…思えば、彼らとこうして遊ぶのはかなり久しぶりかもしれない。いつもいつもトレーニングやバトルばかりで、ずっと一緒に生活していてもこんな日常は彼らには無かったのだ。私はトレーナーとしての考え方を改めた方が良さそうだ…。勢いに耐え切れず、体がふらついて後ろに倒れながら私はそう思った。

「……っと、」

「!?」

背中に感触を感じて時が止まった。
…いや、時が止まったというのは揶揄だ。
倒れかけた私の背中を誰かが支えている。地面との接触を回避できた背中全体が、どうやら与えられたぬくもりによって安心しているようだった。

「大丈夫かよ」

頭上から降ってきた声は良く聞きなれたグズマの声だった。上を見上げて、自分のほぼ真上にグズマの顔がある事を確認して私は状況を理解した。私が仰け反った事でバランスを崩した所を、その大柄な体で受け止めてくれたようだった。広い胸板で私を受け止め、手は咄嗟になのだろうが私の前に回される。ポケモン達は早々に私から離れていたので、その格好はどこからどう見ても後ろから抱きしめているだけのものになるだろう。
グズマと目が合って、私は少し狼狽えた。こんなに近い距離で彼と見つめ合う日が来るだなんて思ってもいなかった。「だ…大丈夫よ。ありがとうグズマくん…」なんとかそう声を絞り出して彼の腕に手を添えると、グズマは呆けた顔をした。
暫く固まったままのグズマをどうやってからかおうか…私はそんな事を考えた結果、片手を伸ばしてグズマの後頭部に添えた。背伸びをしながら手を引き寄せる。そしてギリギリまで顔を寄せて囁いた。「…グズマくんのえっち」背伸びをしたことによって腕の位置がずれ、丁度胸の位置で止まっていた。そんな事にも気が付いていない様子のグズマは自分の手を、状況を確認してから漸くぱっと手を離したのだった。
うわ、想定外。
手と顔をグズマのほうに向ける不自然な格好をしていた私は、押さえるものが無くなった体の回転を止める事も出来ずに、そのままグズマに正面から抱きつく事になってしまった。
どうしよう…。
私も少々テンパっていた。なので、咄嗟に出た言葉が「バトルしよう…」だったとしても誰にも責められはしないのだ。





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