「それ飲んだらもう寝ましょう」

そう言った花子は時計を見てあくびをした。
疲れているんだろう。

「そっちの部屋が寝室よ。クローゼットとかを勝手に開けなければ好きに使って」

「は?あんたの部屋なんじゃねえのかよ」

「そうだけど…。あなたにこのソファはあまりにも小さ過ぎるでしょう」

「あんたは…いや、いい、オレがここで寝るから」

飲み終えたマグカップをテーブルに置くと、有無を言わさずに寝転がる。
花子は考えるような素振りを見せると、同じようにマグカップを置いて、なんと、寝転んだオレの横にピッタリと寄り添ってきたのだった。「じゃあ私も…」何…っ、なんてことしやがるこの女!「ああもう!」がばっと起き上がり、花子を横抱きにして寝室に入り、ベッドの上にそっと下ろした。少しだけ血色の良くなった耳と頬を、見て見ぬ振りをして、吐き捨てるように言った。

「どうせ一緒に寝るなら広い所の方がまだマシだ」

「賢明な判断だわ」



もんもんと眠れず、出来る限り壁際に寄って固まっていたのだが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
腕を伸ばして眠れているという事は、花子はもう起きてベッドの外ということだ。
まだ眠い。もう少し眠っていても、あの女は許してくれるだろうか。
ふとそう思っていると、ふわりと髪を梳かれて、内心驚いた。人の手が、オレの頭を撫でている。この空間にはオレと花子以外の人間はいないはずだ…。固まったままでいると、髪を撫で回していた手がするりと頬に添えられて、輪郭をなぞって、唇を撫でられた。「!」まさかの出来事に、オレは更に固まるが、相手も弾かれたように手を離した。今がチャンスかもしれない…。手が離れた事を良い事に、オレは掛け布団を掴んで思いっきり頭から被った。目を見開いて、唇を噛みしめる。自分の顔が赤くなっているのを感じる。何だったんだ、今のは!するりと唇の上を滑って行く指の感触を思い出して、オレは悶えた。布団を剥ぎ取ろうと引っ張られるのを、全力で阻止した。今この顔を見られるわけにはいかない。「グズマくん!朝だよ!ご飯食べよう」何事もなかったかのように手を添えられてそう言われると、もしかして花子からしてもさっきのは失態だったのかもしれない。なら好都合だ。
今起きたふうを装って「ん…んぁ?」と声を上げる。

「グズマくん!朝ごはん!食べよう!」

もう一度声を張り上げてそう言った花子に答えるように、オレは片手で顔を覆いながら起き上がる。上手く隠せているだろうか。

「さあ顔を洗ってきて。朝ごはんできてるよ」

また何事もなかったかのように部屋を出て行く花子の背中を見送って、オレはため息をついた。わりと前途多難かもしれない。





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