今も尚振り続ける雨は、鬱陶しいくらいにオレの耳を煩わせる。
敬愛していたルザミーネはもういない。
もう、オレを認めてくれる人なんていないのだ。
眩しい位にオレを焦がした小さな光は、オレの中の何かを壊して去って行った。
焦燥感に苛まれながら、オレは声を上げる。「なにやってんだよグズマァァ・・・」チンピラのボスを気取っていた事も、決して手に入らない愛を求めた事も、肝心なところで怖気づいた事も、熱い勝負に負けてこうして腐っている事も、全て、オレの自尊心を傷つける。
もう、何もかも無くなってしまった。
けれど、自暴自棄にもなれない。
暴れまわって、何もかも壊したところで何もならないという事をもう知ってしまった。オレは結局何一つ、手に入れる事は出来なかった。
ボールの中でオレの事を心配そうに見ているポケモン達には悪いが、出してやれる気にはなれない。
そもそも顔向けが出来ない。
オレが今までにやってきた事は、とてもじゃないが誇って言える事ではない。アイツらにこの罪を背負わせるのは間違っているのだ。
ふと、ギィィ、と嫌な音を立てて扉が開いた。反射的にそちらへ目をやる。
扉を開けたのは見知らぬ女だったが、オレにはどうでもよかった。
ちらりと一瞥しただけでまた視線を落とすと、女はゆっくりと緩慢な動作でこちらに歩いてきたかと思ったら、手を伸ばしてきてオレの背中に触れた。
この雨の中、傘も差さずに歩いてきたのだろうか、女の髪から滴る水滴がオレの肩を濡らしていく。

「……なんだお前…」

思わずぽつりとその疑問が口をついた。
女はその疑問には答えないで、代わりとばかりにそっと囁く。「グズマ…バトルしよう」ダイレクトに耳に飛び込んできたその言葉は、オレの耳が得た久方ぶりの人の言葉だった。

「あんたは…何なんだ一体…」

何故オレの名を知っているんだ、とか、何故バトルを挑むのか、とか、そもそもこの女は一体誰なのか、とか。様々な意味合いを込めた一言を絞り出す。すぐ横にある女の顔を睨み付けると、酷く澄み切った綺麗な瞳と目が合う。

「バトルしよう」

再びそう言った女はあくまで無表情のまま、するりとオレから離れて、腰のモンスターボールに手をかけた。
緩慢な動作で投げられたボールから現れたポケモンは、闘志の塊のように吼えた。
何を言っても聞かなさそうなこの女には、もうバトルしか残されていないのかとすら思った。
オレの出方を窺っているような様子も見受けられるが、微動だにしないままの女はただ真っ直ぐにオレの事を見ていた。
なんて鬱陶しい。
いいじゃねえか。
やってやろうじゃねえか。
もう何も壊すものも無いし、この怒りをぶつける相手が出来た事を素直に喜ぼう。
座っていた椅子から立ち上がり、腰に手を伸ばして、先頭にあったボールを掴んで投げた。

「グソクムシャ、であいがしらだ!!」




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