スカル団解散。
あの事件を切欠に一つのならず者集団が解散した。
彼らが根城にしていた、あのいかがわしき屋敷は以前よりもずっと閑散としていた。
もともと荒れ果てた町だったのだけれど、人が居なくなるだけでこんなにも違うのかと思う。ここは本当の意味でゴーストタウンになってしまった。そのうちゴーストタイプのポケモンが住み着くかもしれない。
スカル団のメンバー達は元幹部のプルメリが全員連れ出したらしい。今は一人にしておやり。…それよりもあんたたちの身の振り方を考えな。行く所が無い奴はアタシに付いてくるんだね。とそう言ってメンバー達を諭しているのをこっそり聞いた。本当に彼女は出来た人だ。姉御肌ってやつだろうか。スカル団がならず者集団の割に案外纏まっていたのは、彼女のカリスマのおかげっていうのが半分だろう。もう半分は言わずもがな、リーダー・グズマのカリスマだ。
話は逸れたが、私は今その屋敷の前に立っている。
相変わらず降り続く雨の中、私は傘も差さずに佇んでいた。ぎゅっと手を握り締めてから、足音を忍ばせて屋敷内に入る。
久しぶりに入った屋敷内は少し埃っぽくて、思わず溜息を付いてしまった。あ、と思ってすぐ息を止めたのだけれど、この雨にかき消されているだろう。

「なにやってんだよグズマァァ…」

か細く囁くような声が階上から聞こえてくる。吹き抜けの部分を見上げて、私は階段を上がった。落ちたままのシャンデリアを避けて少し遠回りして歩く。毛足の長い絨毯が足音を消してくれているおかげで、目的の部屋に意識を集中させる事が出来た。
私はプルメリのような出来た女にはなれないが、ずるい女ではある。弱っている今がチャンスだ。必ず漬け込んでみせる。
見てるだけなのはもうやめにしよう。
錆びたような音を立てて開いた扉の先には、椅子に座って項垂れている男が居た。

「………」

音に気が付いたグズマはぼんやりとした目でこちらを一瞥しただけで、また目線は下へ。
まあ、当然と言えば当然の反応だ。彼と私には面識が無い。私が一方的に彼のことを知っているだけなのだ。
私は静かに彼に近付いて、そっと正面からグズマの背中に手を回す。力は入れないで、添えるだけのような抱擁。これでも気を使っているつもりだ。なんせ私の体は頭からつま先までびしょ濡れなのだから。乾いた彼の服に私の手の水分が吸い取られていって、体温が伝わってくる。暖かい。
予想もしていなかったのか、私が触れた途端グズマはびくりと肩を揺らした。私の髪から落ちた水滴がグズマの肩を濡らす。

「……なんだお前…」

ぽつりと呟かれた疑問符には答えないで、代わりの言葉をそっと囁く。

「グズマ…バトルしよう」

「あんたは…何なんだ一体…」

怒気を帯びた目で私を見上げてくるグズマ。ああ…なんていうか…不謹慎だが、幸せだ。彼の瞳に光が戻って一番初めに目に写したのが自分のポケモンでもなく、仲間でもなく、この私だっていう事がすごく、幸せな事に思えた。それに、初めて彼の瞳が私の事を写したのだ。…この日を待ちわびていた。

「バトルしよう…」

私はもう一度そう言うと、するりと彼から離れて距離を取る。モンスターボールを投げて、いつかの日のために育て上げた自慢のポケモンを繰り出す。
きみが今まで壊してきたんだ。今度は私が壊す番。何もかも壊しちゃってまっさらな状態からはじめよう…。
何度でもやり直しはきくんだから。
私の様子を見ていただけだったグズマは、しばらくして漸くゆらりと立ち上がって腰に手をやる。
どうやらやる気になってくれたみたいだった。
ボールを投げたグズマはがなった。

「グソクムシャ、であいがしらだ!」




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