「ん・・・」
急に意識が浮上して、ああ、私は眠っていたんだなと思った。
目を閉じたまま昨夜の記憶を思い出すが、やはりココアを淹れて飲んだところで途切れている。あのままソファで眠ってしまったんだなあ。
実は密かに目を覚ましたら降谷さんがいて、そんなところで寝ていたら駄目じゃないかって叱って欲しかったりしたのだが、やっぱりそんなものはご都合主義だったようで。人の気配を探ってみるが、誰かがいる気配はない。
目を開けたら降谷さんがいて、な、なんですか気配消してそこにいないでくださいよ!びっくりするから!!と言うシチュエーションが頭に浮かんだが、私は現実を見なくてはならない。諦めて目を開けよう。冷ややかなほど静かなリビングで眠り続けるのは良くない。

「・・・ん?」

しかし目を開けたらそこはリビングではなかった。
目を擦ったけど目の前の現実は歪まない。夢じゃない。
私は自分の寝室で、ちゃんとベッドの中で眠っていたのだ。
昨夜の記憶をもう一度確認するが、やっぱりソファで眠ってしまったのが最後だ。
と言う事はまさか。
慌てて飛び起きてスマートフォンを片手に部屋を出る。
果たしてそこに降谷さんはいなかったけれど、冷蔵庫の中身を確認すればおかずが一品減っていた。コンロに置いてあるスープも心なしか減っている。
シンクの上の水切りには洗った食器が置かれていて、急に生活感が戻ってきた気がした。

「はあっ・・・!」

安心感からか、張り詰めていた空気がとけたからなのか、私は大きく息をはいてその場で座り込んでしまった。
な・・・なによ。心配かけさせやがって・・・。顔見たらまずは文句言ってやらないと気がすまない。心配したじゃないとか、ご飯いらないなら連絡する約束でしょとか、なんで連絡の一つも寄越さないのよとか。言ってやりたい事は山ほどある。正直生きた心地がしなかったのだ。たった一日連絡が無かっただけなのに。

「・・・・・・七市野?」

「!!!」

目に涙が滲んできて、ああ、だめだ、零れる・・・と思って上を向いた瞬間。聞きなれた耳障りの良い声が耳に飛び込んできて、私は大きく開いていた目をさらに開いた。ばっと振り返ればそこには待ち望んだ人の姿があって。

「どうしたんだ、一体」

やつれたままの顔をした降谷さんの少し動揺した声を聞いて、「それはこっちの台詞よ!」とでも言ってやれればよかったのだけど。しかし実際に私が言ったのは情けない声の「ふ、るや・・・さ・・・・・・!」と、「いいえ、何も・・・。おかえりなさい」という言葉だけだった。
そのあと、ここがキッチンのシンクの前で、しかも床に座り込んでいる状況だということを忘れて、私は笑った。


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