ハーベスト | ナノ



いやー今年もいい夏だった!
相変わらず客は少なかったけど、それでも毎年徐々に利用者は増えてってるし。
毎年俺の事楽しみにしてくれてる奴らも居る。

勿論、俺も皆に会うのが楽しみで……
それは他の街に行ってもそうなんだけど……

「クレア、見送り来てくれたの?」

何でだろうな。今年はそんなに楽しみじゃないんだ、他のとこ行くの。
理由はこの子だって解ってる。
あ〜結局今年も思い伝えられなかったなぁなんて後悔してももう遅い。
夏はもう、終わったんだ。

「ちゃんと忘れ物ないか確認した?」

「したよ。子供かよ俺は」

「ふふ、だって心配なんだもの」

笑うクレアにつられて、ちっとも笑える気分じゃないのに笑う俺。
またさ、最後にこうやって見送りにまで来てくれちゃうからさ、もう名残惜しくて名残惜しくて。

抱きしめたくて堪らないんだけど、俺たちはそんな関係じゃない。
思いを告げれないのも怖いから。振られて町に来辛くなるのとか、ほか諸々。
けど毎年彼氏できたんじゃないかな?とか不安に思ってここ来てるんだけどね。怖いのはどっちみち一緒か。なんて、俺は何かと理由をつけて今年の夏を締めくくろうと奮闘した。

「もう、寂しくなるから帰ってよ。また来年笑顔で迎えてくれない?」

ちょっと冗談ぽくそう言ってみせる。すると、彼女は悲しそうな顔をしてじっと俺を見つめていた。

ドクン、ドクンと、胸が高鳴る。

――何でそんな顔するんだよ。
何でそんな悲しそうなんだよ。

そんな時、止まってた船が汽笛を上げた。
ああ、時間だ。こんなタイミングで出航だなんて、ついてねぇな俺。

「ありがとな、クレア。もう行かなきゃ」

そう告げて彼女の頭を撫でれば、クレアは必死で笑顔を作り「気をつけてね」と言う。
何て締めの夏なんだ。
こんなにもモヤモヤするなんて……。

そんな後味悪い気持ちを噛み締め
船に乗りかけた時だった。

「カイ!」

俺を呼ぶ声に視線を向ければ下にはクレアの姿。
必死で何か告げようとしてるけど、肝心の声が聞こえてこない。

俺は何を思ったのか、クレアへ向けて手を伸ばしていた。
そしてクレアも自分の手を伸ばす。

もう一度汽笛が鳴り、船はゆっくりと出航した。

「なん……で……」

小さくなる船を見送って、俺は立ち上がる。
あー痛てぇ。飛び降りたから膝とか掌とかすりむいちまった。

「忘れ物したんだよ」

あんなにクレア確認してくれたのに悪かったな。そう言って笑うが、彼女はまだ驚きを隠せないようだ。

正直、自分でもまだ驚いてる。
なんでこんな事したのか、何でこんなにスッキリしてるのか。

勢いよく彼女を抱き寄せて、ギュッと力を込める。
これだよ、俺が望んでたのは。
抱きしめたくて堪らなかったのに、ずっと叶わなかった。

「カイ……」

「ずっと言えなかったけど」

そう言ってクレアの顔を見たらもう止まらなくなっていた。
だめだな、俺。もっと女の子は口説いて……口説き落として手出すのが俺のセオリーだったのに。

順番めちゃくちゃ。
ダメだって分かってるんだけど、堪らずクレアに唇を重ねていた。

ああ……一回じゃたりねぇ。
離した唇をもう一度彼女のソレに重ねる。

名残惜しく思いながらも再度離れれば、目の前は真っ赤な顔したクレアが居た。
困ったな。可愛すぎて、胸が熱くなる。

「クレア、愛してる」

ここまでしちゃったらもう分かったと思うけど。今度は俺が照れる番だった。
クレアはじっと黙って固まっていた。アレ?もしかして聞こえてない!?ちょっと焦って顔を覗き込めば、クレアの綺麗な瞳からは涙が溢れていて。

アレ!?やっぱいきなり過ぎて俺失敗しちゃった感じ!?嫌だった?
焦った俺は抱きしめていた腕を慌てて離した。
いや、正確には離そうとしたんだ。けれど、すぐさま腕の中にクレアが飛び込んできてそれは出来ずに終わる。

「ずっと言い出せなかった」

クレアは絞り出すようにそう呟いた。
きつく抱きついているクレアの言葉を促すわけでもなく、俺は彼女の頭を撫でながらじっと続きを待つ。凄く長く感じたけど、不思議と嫌でもなくて。寧ろ今俺の腕の中にクレアがいる現実が凄く幸せに感じられた。

「今日こそはって思ってたの。でも伝えられなくて……。だからカイが船から飛び降りた時、びっくりしたけど凄く嬉しかったの」

俺に抱きつくクレアの腕に力が入った。
それに返すかのように俺もギュッと力を込め彼女を抱きしめる。

「好きなの、カイのことが。だから、ずっと私の傍にいてほしい。もう来年の夏なんか待ちたくない」

「なんだよそれ……まるでプロポーズじゃん」

そう言ってからかうように笑えば、クレアはまた顔を真っ赤にして俺の胸に顔を埋めた。
アレ……まさか図星?自分で言っておきながら何だけど、猛烈に恥ずかしくなる。
何女の子から言わせてんだよ俺……。カッコ悪いにもほどがある。

ねぇ、クレア?先に言わせたことを後悔しながら、彼女に呼び掛ける。
恐る恐る顔を上げたクレアはまだ真っ赤だった。そんな姿も愛おしくて堪らない。

「今日からずっとクレアの傍に居させて。俺、もう何処にもいかないから」

それにほら、船ももう行っちゃたしな!そう続ければクレアは笑顔で頷いた。

クレアの家までの帰り道、手を繋いで二人であるいた。
秋が始まったというのに俺の姿がある事に町の皆は驚いた様子だったけど、空気をよんでか知らないが何も突っ込んではこなかった。
俺自身もこんな事になるなんて正直驚いてる。
けれど、ずっとこれからクレアが隣に居ると思えば、何だかもうどうでもよくなった。

「なぁ、クレア」

「なぁに?」

隣で歩く綺麗な彼女は、昨日までずっと俺が憧れていた女性で。
まさかたった1日でこれからずっと傍に居られるようになるとは思ってもみなかった。

「うんん、何でもない」

ちゃんとしたプロポーズはまた改めてさせてもらおう。

俺たちの夏は永遠に続くのだから。


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