「すげーよなぁ〜クレアさん。毎日これ一人でこなしてたんだろ?」
俺の問いかけにニコリと笑い、随分余裕そうな感じで彼女は伸び過ぎた作物の葉を切っていた。
それに比べ俺は……。
情けないなと肩を落とす。
仕事辞めて、「そういえばじいちゃんの牧場で女の人が働いてるって言ってたなぁ〜、前牧場主の孫ってのをちらつかせて働かせて貰おうかなぁ〜」なんて甘い考えでやって来たのに、クレアさんはあっさり俺を雇ってくれた。
働き始めて早一週間。
彼女にくっ付いて仕事したが、男の俺でも相当しんどくて、ただただ感心するばかり。
彼女もOL辞めて数年前に牧場やり始めたって聞いたが、ほんとよくここまで頑張ってきたよ。
俺が最後に見た荒れ果てた牧場を、ここまで蘇らせるなんて。
「少し、休憩しよっか」
「え?あっ、ごめんクレアさん。俺役に立たなくて……」
冷たい麦茶を渡しながら、クレアさんはまた微笑んだ。
本当、綺麗な人だなぁ。
色白で、輝く金髪。吸い込まれるようなアクアブルーの瞳。
「もったいない」
「ん?」
やべ、声漏れてた!
ついつい口走った言葉に、クレアさんは不思議そうにしている。
当たり前だ。唐突すぎる。
「いや、クレアさんモテそうだなと思ってさ。もともと、都会にいたんだよね?」
「ふふっ、ありがと。そうよ。仕事ばっかだったんだけどね、なんかつまんなくて。長いことOLもしたし、新しい事に挑戦したいなぁって」
結果が、コレ。そう言って彼女は広い牧場を指差した。
加えて、「毎日楽しくて仕方ないの」と照れ臭そうに笑う。
「ピート君もかっこいいしモテるんじゃない?街で仕事してた方が女の子と遊ぶ機会とか多いと思うけど」
「いやぁ〜まあ、普通に彼女はいたりしたけど……」
「あら、今はいないの?」
「うん。別れたよ。仕事も恋もダメダメ」
思わず零れた苦笑い。
なんでこんな情けない話してんだと思う俺に、クレアさんは「若いわね」と楽し気に話を聞いてくれていた。
「クレアさんはないの?こっち来てからもさ。独身の男結構いるじゃん、この町」
「う〜ん、恋愛かぁ。牧場にのめり込んでたし、めっきり考えてなかったなぁ」
「それが勿体無いって!」
「うーん、ある程度年取るとね、色恋沙汰とか諦めちゃうもんよ?」
ピート君はこれからだけどね、とクレアさんは楽しそうに笑う。
男と女は違うってやつか?クレアさんもまだまだイケる歳なのに、やけに年上ぶるというか、なんというか。
「いやいや、クレアさんも俺と同じ位の歳でしょ?これからじゃん」
「あら、そう見える?」
ふふ、といたずらっぽく笑う彼女に首を傾げたくなる。
それか、俺の事えらい若く思ってんのかな?
「てか、クレアさん何歳なの?」
女性に歳を聞くのは失礼だとよく言うが、やけにひっかかって聞いてしまった。
クレアさんは笑顔のまま。よかった特に不快には思ってなさそうだと、胸を撫で下ろした瞬間だった。
「もうすぐ35かな?」
「ぶっ!!!!」
うそ……だろ?
またからかってんのか?
俺の知ってる35の女と違い過ぎて、頭が軽くパニックだ。
俺とタメでも全然イケるぞ!
何か言おうと試みるが、あまりのショックに声にならない。
そんな俺が面白くてしょうがないのか、クレアさんはずーっと笑ってた。
「頑張れ!若者!」
バシッと俺の背中を叩いて、クレアさんは颯爽と仕事へ戻って行った。
まだ眩暈がする。ああ、でもこうしちゃいられない。
ゆっくり立ち上がり、俺も彼女の後を追った。
おねえさんはピートくんとは10歳くらい違うといいな
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