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「カレンと話さないで、近付かないで、どこにも行かないで、私だけを見て」

「えっ……」

至って真面目な顔で一息で言い切った彼女に、リックは戸惑いを隠せなかった。
彼女は今までこんな事を言う人間では無かった。だからこそ驚いたし、そこで幼なじみの名前が出てきた事に疑問を感じて、自分がなにかしたのだろうかと己に問い掛けてみる。

「どう?ポプリちゃんの気持ち少しは分かった?」

「は……?」

「うーん……これじゃ無理か。私はあんまりリックの気持ち分からなかったかも」

なんか気分悪いと複雑な表情を見せたクレアに、リックは漸く何故彼女がこんな事を言い出したのか理解する。ふぅ、とでたのは溜息で、脳裏には可愛い妹の姿が浮かび上がった。

「ポプリか……。今度は何言われたの」

「お兄ちゃんったら煩いのよ!いい加減妹離れしてほしいわ」

だってさ。お兄ちゃん。そうポプリに言われたまま、ポプリの様に言ったクレアに少しビクリとしたのはあまりにも彼女の真似が上手かったから。一瞬妹と彼女がダブって見えて、思わず苦笑いが零れる。

「はは……クレア、ポプリの真似上手いね」

「もう数え切れないくらいポプリちゃんからリックの話聞いたもの。ポプリちゃんの真似なら自信あるわ」

ニコリと笑った彼女にリックは笑みを返す事など出来なかった。まさか自分の知らない所で数え切れないくらい自分が話題になっていたとは知らなかった。

いつも悪いねと謝ってみると、ほんとよとクレアは頬杖をつく。口ではそう言っているが、微笑んだ口元から決して悪い気はしていないようだった。ポプリは彼女を姉のように慕っているから、本当に妹が出来たみたいで嬉しいと以前語っていたのを思い出す。だからこそ、ポプリの悩みの種であるリックを何とかしなくてはとクレアは冒頭の様な話を切り出したのだろう。ある意味彼女もリックにとっては厄介な敵である。

「俺の気持ちがわからないのも無理はないよ。まず、立場が違うからね。兄と妹、彼氏と彼女じゃ全然話も違って来る」

「うん……まあ、確かに」

どうしたものかと頭を悩ませるクレアを見るのは正直いい気分はしなかった。そんなにダメな兄貴なのだろうかと自然と気持ちは沈んでいく。

「気持ちはわからないけれど、少し気をつけてみるよ。もう少し大人になるように努力してみる」

「あら、どうしたの?聞き分けが良すぎるわね」

「流石に彼女からも咎められちゃ、ね」

格好悪いし、と頬を掻くリックにクレアはクスリと笑う。彼が格好良いだとか悪いだとか意識する人間だとは思っていなかったからだ。

「ねえ、なんでカレンなの?」

「幼なじみで美人な女の子で彼女からしてみれば強敵かと思ったからよ」

「じゃあ、今まで嫉妬とかしてた?」

「うーん……私は割り切ってる方だけど、少しはしたかも」

でも私カレン大好きだからね!と続けた言葉に、安心感とともに今度は少し自分が嫉妬した事は彼女には内緒だ。また、自分がこんな風に嫉妬されてるとは思わなかったため、どこか嬉しくもあった。

「ねえ、クレア」

「なに?」

「俺さ、あんな事言われて戸惑ったけど、ちょっと真剣に考えたんだ」

笑いながら言うリックに、クレアは目を丸くして驚く。てっきり彼はあれがクレアの本心だとしたら全力で説得してくると思っていたのだ。それがまさか聞き入れようとしたなんてと、驚きを隠せない。

「それだけ、クレアに愛されてるのが嬉しかった」

「……リック、そんなだからポプリちゃんにしつこいのよ」

自分がされて嬉しい事は他人にもしてあげなさい。そんな何処かで聞いた教訓のようなものを思いだし、クレアは複雑な表情を浮かべた。
あははと笑いながら、そうかもしれないと笑うリックに彼女はやれやれと肩を落とす。

「うん……でもね、流石に話すな会うなは嘘だけど、何処にも行かないでって言うのはほんと。あと愛してるのもほんと」

さらりと言って見せたクレアに、リックは微笑む。
手を伸ばして優しく頭を撫でてやれば、そっと彼女は身を寄せる。彼に撫でられるのは子供扱いされてるみたいで嫌とポプリは言っていたが、クレアはこれが好きだった。こんなにも大切に思ってる事が伝わってくる程優しく撫でられるのは凄く心地が良い。

「何処にも行かないし、俺はクレアしか見えないよ。これからも、ずっと」

「ありがとう。なら早く妹離れしなさいね」

結局そこに行き着く彼女にしっかりしてるなと思う。
彼女の言葉に苦笑いを浮かべながら「努力するよ」と言うのが、今のリックには精一杯だった。


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