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「髪、切ろうかな」

そう言い出したのは、その場にいた髪の長い男女のうちの女性の方だった。
金色の髪を指で摘みながら、今にも溜息の出そうな顔をして自分の髪をじっと見つめている。

面食らったような顔をしたのは男性だった。茶色い長い髪を一つに結っている彼は、瞬きもせず彼女に目を見張っている。

「どうしたの、急に」

「うーん。今までただ何と無く伸ばしてたんだけどね、牧場の仕事してる時、たまに邪魔なのよ」

しかしこの小さな町に、美容室などあるはずもない。
だからといって、自分の手で髪をバッサリと切り落とすのはかなり勇気が要る行動だ。
もし失敗したら、と最悪な状況も考えられ、クレアは困ったように髪を見つめていたのだった。

「クリフ、切ってくれない?」

「えっ!?僕?」

突然な申し出に、クリフはカップに入った紅茶を零しそうになる。ギリギリ零さずに終えたクリフは、ホッと一息つくと、静かに持っていたカップを置く。

「クレア、こっちおいで」

クリフは微笑みを見せて彼女を呼ぶ。もう、髪を切るのだろうか。正直まだ心の準備が出来ていない。

恐る恐る近付くと、クリフの目の前の席に座るよう促される。そのまま後ろを向くように言われ、クレアはクリフに背を向け、そっと腰を下ろした。

「髪、綺麗だね」

クレアの髪を掬いながら耳元で言うものだから、ゾワリと鳥肌が立つ。首を掠めるクリフの指と自分の髪が、妙にくすぐったくて緊張感が漂った。

そんな様子を見てクスリと笑ったクリフは、手櫛で彼女の髪を一つに纏めると自分のポケットを弄り出す。
そして慣れた手つきで一つに纏めた髪を縛り出したのだ。

「はい、完成」

「え?」

「意外とこの位置で結んでると楽なんだよ」

「で、でも、」

「それに僕、髪長い子好きだしね」

そう眩しい程の笑顔で言われては、もうクレアは何も言えなくなった。黙って自分の髪を触ってみると、自分で結んだ時より彼の方が上手く出来てる事に苦笑が漏れる。

「これ、」

自分の髪を見つめながら、ぽつりと零したクレア。
小首を傾げながら彼女の髪を触れば、サラリとクリフの手から滑り落ちる。
その様子を見ながら微笑んだ彼女は、自分も同じ様に彼の髪に手を伸ばす。

「お揃いだね」

そう呟いてそっとクリフの髪に唇を落とす。その仕種が何と無く照れ臭い。

「そうだね」

自分の髪に触れる彼女の左手をとり、そっと指先に口づけながら、クリフは微笑む。

「どうせならもっとお揃いを増やそうか」

例えば、エンゲージリングとか。
クスリと不適に口端を吊り上げて、クリフは彼女の薬指に唇を落とした。





うちのクリフはキス魔


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