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「……なに?」

気が付けば手を伸ばしていた。思ったより力強く引っ張ってしまって、ヤバイと心臓が煩い程動き出す。
袖の裾を捕まれた張本人は驚いたような、また怪訝そうな顔をして腕を振りほどくでもなく、じっと私を見つめていた。

「あっ……」

ごめんなさい、そう口は動くけど声は出ない。小さな声を出して顔を上げれば、彼は更に驚いたように目を見開いていた。

どうしよう、どうしよう。
早く手を離さなきゃと思うけど、身体が硬直して動かない。ただ、掴んだ指先だけが、ピリピリと電気が走ったように痛んで小刻みに震えていた。

「クレア、」

困ったような声色でグレイは私の名を呼んだ。当たり前だ。帰ろうとしている彼を、意味も無く引き止めた揚句、動きもしなければ何も物言わないのだから。

思えば、私はどうして彼を引き止めてるのだろう。
たまたま会ったグレイと、たまたまいつものように会話して。そしていつものようにバイバイしようとしてたはずなのに。
困らせるつもりは、無かったんだ。ただいつもみたいに密かに、かっこいいなぁ、とか、ドキドキするなぁ、とか小さな幸せを感じたかっただけなの。

それなのに、きっと心の何処かで私は欲張ってしまったんだ。この想いだって伝えようと思ってないのに。伝えられるわけ、ないのに。

思わず俯いてしまった私の手に、温もりが重なる。
はっ、として慌てて顔を上げれば、相変わらず困ったような顔をして、ニコリと微笑んだグレイと目が合った。

「手、貸して」

そう言って彼は私の手へと視線を下ろす。吊られる様に私もそれを追えば、そこにはまだ彼の袖を掴んだままの私の手に、彼の手が重なっていた。
温もりの正体はこれだったのね、と理解した途端、激しくなる鼓動に胸が熱くなる。

手、振りほどかれるのかな?当然、だよね。

意を決した私は、自らそっと彼の袖から手を離す。
同時に消えてく温もりに、唇を噛み締めた。

次グレイと視線をあわせた時、どんな顔をすればいいんだろう。どんな言葉を言えばいいんだろう。

激しい後悔の念が襲ってきて、激しく自分を罵倒したい気持ちに駆られる。

けれど、そんな気持ちは一瞬で消え去ってしまった。
再び訪れた温もりが、包み込むように私の手を覆ったから。

「……その、帰ろうか。送ってくよ」

そう言って力強く握り締めてくるグレイの手。気遣わせたのだろうか。
せめて何か言おうと小さく口を開くが、やはり声は出ない。
悔しくて、情けなくて、私は泣きそうになりながら、二、三度、頷く事しか出来なかった。

「ん。寒いから、ちゃんと暖まらないとな」

そう言って手を引くグレイはとてもかっこよかった。けれど、こうして手を握ってくれるのも、こう言ってくれたのも、全部気を遣ってくれたんだとしたら……

そんな彼の優しさに、胸がチクリと痛んだ気がした。





格好良いグレイって何?


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