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「おはよう。クレア」

「え……?」

ぼんやりとした視界に、働かない頭。
そしておはようと言う言葉に、クレアは漸く自分が寝ていたんだと気が付いた。

まだ寝ぼけ眼な目は重たくて仕方が無い。いつから寝ていたのだろうか?ふと考えてみるものの、脳もまだ動きが鈍いようですぐには答えは出なかった。

「ん……、クリフ?」

「ただいま。随分気持ち良さそうに寝てたね」

「……?今、何時?」

「もう夜の8時だよ」

そうニコリと微笑んだクリフを見て、クレアは半開きの目を見開いた。
慌てて自分でも腕時計を確認してみるが、確かに針はその時間をさしていて。外もよく見ればすでに暗くなっている。

いつもクリフが帰宅する時間から結構たっている。もしかしたら、ずっと起こさず待っていたのではないかと思って、尋ねようと前のめりになった瞬間だった。クレアの肩からパサリと何か落ちる音がした。

「これ……」

「ああ、大分冷えてきたからね。風邪ひかないようにって」

「……」

笑顔で答えるクリフに対し、クレアはタオルケットを片手に固まった。
考えていたことが当たっていたのだ。サーッと血の気が引くのが自分でも分かった。

そっと手を伸ばして、クリフの肩に触れる。
彼の腕は夜風に晒されて冷たくなっていた。帰ってきてずっと側にいてくれた何よりの証だ。

ぱっと顔を上げれば相変わらずの笑顔で、クレアはグッと何か込み上げて来るのを感じる。まるでそれを飲み込むかのように息を呑み、クレアは意を決して口を開いた。

「ご飯、まだだよね?」

「えっ?そうだけど、ご飯ならこれから……」

「ごめんなさい……!」

切羽詰まったような声に真っ赤になった目。それを見てクリフはただ唖然としていた。

じわりと熱くなる目に、堪えていた感情が一気に溢れ出す。
唇を噛み締めたクレアは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「私……ちゃんと奥さん努めようって……決めたのにっ……」

「クレア」

「……最初からこんなんじゃクリフの奥さん、失格だよね」

消え入るような声でクレアは言った。

そんな肩を震わせたクレアがとても小さく見えて、クリフは思わず抱き寄せる。
落ち着かせるようにそっと髪を撫でれば、クレアはビクリと小さく震えた。

「ねえ、クレア。僕ね、なんでクレアと結婚したと思う?」

優しく問い掛けるクリフを、クレアはキョトンとした表情で見上げた。
自然と上目遣いで見上げる彼女が愛おしくて、クリフはそのままクレアの額に唇を落とす。
そしてにこりと微笑んで、クリフはそっとクレアの頬に手を添えた。

「クレアが大好きだからだよ。ありのままのクレアがね。……だから、無理して頑張らなくていいんだよ」

僕のためって言うのは凄く嬉しいんだけどね、と付け加えてクリフは照れ臭そうにはにかんだ。

それを見てクレアの瞳から、溜まっていた涙が溢れだし、一筋の雫が頬を伝う。
決して泣かせるために言った言葉ではないため、クリフは慌ててその涙を指で拭った。

そして安心させるように微笑めば、クレアは眉を八の字にしてクリフの胸に顔を埋める。まるであふれる感情をクリフにぶつけるかのように、クレアはぎゅっとクリフの服を握り、子供のようにしがみついたのだった。

「私も……大好き」

消え入るような声で呟いたクレア。
しかしそれははっきりとクリフの耳に届いていた。

きっと彼女は真っ赤な顔で恥ずかしそうに言っているのだろう。いつまでたっても初々しい反応が安易に想像され、ふと笑みがこぼれてしまう。

「うん……知ってる」

彼女の耳元で、クリフはそう呟いた。
ピクリと震えたクレアの耳は、みるみるうちに赤く染まっていくのが目に見える。

そのまま耳に口付ければ、クレアは面白いぐらい跳ね上がった。
それを楽しそうに見ながら、クリフはクレアの手を握り立ち上がる。
そしてそのまま歩きだした。自分より暖かい彼女の手を握りしめ、幸せを噛み締めながら。

「今日はご飯一緒に作ろうか」

「うん!ありがとう!」

「……でもクレア可愛いからこのまま僕はご飯無しで寝てもいいけど」

「ば、ばかっ!」

(そんな反応するから可愛いのに……)





痒っ!!!


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