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にぎわう道場の扉をあけると、中央の四角をぐるりと男たちが囲うようにして壁際に座っていた。

道場は異常なまでの熱気に包まれている。誰かが入ってきた総悟に気付き、「一番隊隊長だ」とささやき合うのが聞こえた。

四角の中では土方に合格を言い渡された二人の男が歓喜の雄たけびを上げていた。どちらも上背があり筋骨隆々、いかにもといった風体だ。喜ぶ男と悲しむ男、両極端な彼らと入れ違いに名前を呼ばれた女たちが四角へ入る。

総悟は一人ひとりの顔を目を凝らしてよっくと見た。

女は五人。そのうち四人は仲間のようで、何事か耳打ちをして余った女を盗み見ている。おおかた四人で一斉にかかり、一人を倒すという考えだろう。あとは時間まで適当に打ち合うふりをしながら合格を待つ。いかにもその浮ついた足取りと同じように軽い考えである。

浅はか過ぎる見え見えの魂胆にあきれていると、その四人のうちの一人と目が合った。途端に色めきたった歓声が上がり総悟は思い切り顔をしかめて見せたが全く通じなかった。

女たちは睨むように見られても黄色い声をあげて手を振ってくる。大した神経だと総悟の隣で山崎は思った。女たちは竹刀を手渡そうとしている隊士に気がつかない。

おい、黒髪。
頼むからそいつらコテンパンのボッコボコにしてやってくれよ。
ついでに土方も。

沖田はあからさまに四人から視線を反らし、腰まで届く髪の毛を縛りなおしている女にエールを送った。冗談半分、本気半分である。

女は名を山口蘇芳と言った。かつての総悟たちと同じように田舎から上京してきた身である。

四人が場違いな丈の短い着物を着ているのに対し、蘇芳は地味な稽古着である。化粧っけもほとんどなく、髪を束ねる髪飾りだけが彼女の女らしさを引き立てている。

白い頬が寒さに赤く染まっているのが顔を幼く見せるが、恐らくははたち手前と言ったところだろう。

身なりや服装が強さを左右するとは思わないが、見る側の心象は大きく左右する。何をどうとは誰も口に出して言わないが、おそらく隣にいる山崎も、イライラしながら定位置に女を並ばせている土方も、そして合否を受けた男たちも同じように感じていることだろう。

外界を全く気にした様子のない蘇芳は一人静かに竹刀を構える。乱闘に備えてか左足を踏み出して竹刀を右わきに寄せるようにしている。

「あの黒髪、どうですかね。構えは完璧ですけど」
「さぁな。まぁ、俺は醜い試合が拝めりゃなんでもいいや」

そう言ってひとつ、大あくび。

正直合否なんてどうでもいいのだ。どれだけ醜い争いが起きるかを楽しみにしているのに、五人中四人が仲間ではそれも期待できないだろう。

蘇芳は四ツ角のひとつに身を置き、四人を見渡す。四人とも立ち姿も構えも全くなっていないがなぜか自信満々といった顔をしている。

四対一。確かに頭数だけで見れば人数の多い方が有利である。しかし四人は肝心の事実を知らなかった。見つめる先の女、蘇芳は腕が立つのである。

ややあって蘇芳は静かに陰の構えを解いて竹刀を下ろした。おや、と周囲の男たちが思う暇もなく試合開始の掛け声が道場中に響いた。四人の女が足音うるさく蘇芳目がけて駆けていく。四人には蘇芳が試合を諦めたように見えたのだ。

構えもへったくれもない四人を見て、さっそく興味をなくした総監督の土方は隣に座る原田に声をかける。興味をなくしたのは総悟も一緒で、よそ見をしたその一瞬に事は起きた。

蘇芳は先頭切ってきた赤い着物の女の横っ面に一撃、続けてその右隣にいた青い着物の女も同様に、それぞれ一太刀にて床へ這いつくばらせたのだ。

審判ですらその動きを目で追うことはできなかった。見逃したことに審判は顔を青くして土方に駆け寄る。蘇芳はその場から一歩も動いていない。

皆が呆気にとられ口を開いたまま彼女たちを見つめていた。仲間をやられた女の叫び声にはっとして、直後男たちの雄たけびが空気を震わせる。誰もが想像し得なかった見事な一撃を目撃し、男たちの気分は高揚を極めた。







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