二



江戸に住むようになってからあのような場面に出くわすことが頻繁に増えた。

もともと住んでいた村が田舎すぎてトラブルらしいトラブルがなかったというのもあるが、それにしたって本日三件目だ。物騒なものである。

試験を受けてすぐくらいに土方に連れられてかぶき町を歩いたことがあった。その時に「厄介事には首を突っ込むな」と言われていたが蘇芳の中の正義感は彼女の理性を無視して勝手に行動を起こす。

たまにチンピラたちに顔を覚えられていたらどうしようかと思うこともあるが、女だてらに袴を履いて帯刀している時点で愚問だろうと考えるのを止めた。

ようやく覚えはじめたかぶき町の街中をあてもなくふらふら歩く。行き交う人々は実に様々、また天人の多いこと多いこと。ほとんどが初めて見る天人で、蘇芳は思い切り見つめそうになるのをどうにかこらえる。

ふと目についた珈琲屋の看板。珈琲屋というよりは喫茶店といった様子のそこはレンガ造りがレトロな雰囲気を醸し出している。

ショーケースをのぞけばいまにも甘い匂いがしそうなイチゴパフェ、チョコレートパフェ、抹茶パフェ……それ以外にもショートケーキにパンケーキ、葛切りにあんみつなどたくさんの誘惑。

蘇芳は食い入るようにしてそれを見つめた。ちょうど小腹も空いたことだし、軽食がわりに何か甘いものでも食べていこう。しかしこうもたくさんあっては悩む。

コーヒー、サンドウィッチ、お好きなケーキで1500円のセットにするか、ジャンボパフェ1800円か。はたまたミニパフェ580円全種類か。

腕組みしながら悩んでいると後ろから、

「ここはイチゴパフェがうまいぜ」

と、けだるそうな声。

振り返ったそこには白髪のパーマ頭が特徴的な着流し姿の男が立っていた。

「そうなんですか?」
「いや、全部うまいんだぜ? しかしここのイチゴパフェには秘密があってだな……」
「秘密……ですか?」

名も知らぬ謎の男の話に引き込まれ、蘇芳は息を呑む。真剣な眼差しで見つめて来る男が静かに口を開いた。

「カップルでイチゴパフェご注文のお客様に限り、次回有効ケーキサービス券が付く」
「…………」
「ちなみに男女一組なら恋人かは問わない。つまり……どういうことかわかるな?」

男はニヤリと笑い、無言で右手を差し出した。蘇芳も頷きその右手を握りかえす。甘味好き同士、もはや語ることは何もない。

「素晴らしい秘密をありがとうございます。申し遅れましたが私、山口蘇芳と申します」
「俺はそこで万事屋銀ちゃんっつー店をやってる坂田銀時ってモンだ」
「よろずやさんですか?」
「おう。お嬢さん、最近この町に来たんだろ? 袴姿に帯刀した女がいるって結構有名だぜ。俺もたまたま見かけたモンだからよ、ついつい見てたらここで立ち止まって甘いもん見てるから声をかけねぇわけにゃいかなくなったのよ」
「坂田さん独り身なんですか?」
「……直球だねぇ。独り身だから声かけたんだけど。いやね、うちにも居候の娘っ子がいるっちゃいるけど……あんなん連れて間違ってもカップルですなんっつたら俺は豚箱行きだな」
「……見た目でアウトってことは同棲の時点でアウトなんじゃないですか?」
「うわっ、同棲とか生々しい言い方すんなよ! 俺ァ同棲すんなら断然蘇芳ちゃんみてーな黒髪美少女だな、ウン」
「多分、私と坂田さんでもアウトだと思いますよ。私まだ18なので」
「恋愛は自由だってーのに、未成年との交際はアウトっておかしいと思わない?俺ァ当人さえ合意ならなんでもアリだと思うわけよ」
「確かに。それは最もですね」
「だろ? つーわけでケーキ食ったら銀さんと時間無制限で一発勝負なんてどうよ?」

締まりのない顔で言う銀時は半分本気で半分冗談である。







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