彼女が囲う、パンドラの箱





ふ、と目が覚めるといつもの布団に包まれる暖かい感覚。



(……?)


未だ暗い室内だが、自分の部屋には間違いない。



「───っ!?」


間違いない?



ビルの屋上で、キッドと話していたのに!?



ガバッとそのまま飛び起きた雛は、改めて室内をぐるりと見回した。


いつもと変わらない静かな部屋の中にしか見えない。



「私、どうして…?」



時計に目をやると、日付が変わって少し経ったくらいだ。



煙で急に眠くなったところまではちゃんと覚えてる……キッドは私が黒羽邸に住んでいることまで知っていて、更に室内まで送り届けて寝かせたというのだろうか。



(わかんない…、否定されたけど、本当に快斗じゃないの?)



月を背負うキッドの、不敵な笑みを思い出した。



『彼が、怪盗キッドだとしたら…貴女はどうするおつもりだったのですか』


『それは開けてはならないパンドラの箱…、私は貴女に焦がれる一人の男に過ぎませんよ』




「…パンドラの、箱」



正体が誰であっても詮索してはいけない、ということだろうか。



(快斗じゃなかったら危ないことに首を突っ込んでるのかなぁ……、快斗だとしても、青子ちゃんにも言えないことを私に話すはずないか…)



はぁ、と溜め息を吐いて窓を眺めた。


優しい月の光が室内に届いている。



部屋の隅に吊された一輪の薔薇を一瞥すると、雛はクローゼットを開けて立体型のクリアケースを取り出した。



両手に乗せられる程のそれには、ガラスケースが入っていた。


中央に飾られた赤い薔薇と、それを引き立てるように添えられた白とピンクの小さな花々──幼い頃、快斗にもらった薔薇を加工したプリザーブドフラワーが飾られている。



普段からクローゼット内に隠しているのは保存の為と、『快斗に見つかったらなんか恥ずかしい』から。




快斗が気付いていないだけで、雛は小さい頃の彼に約束した通り、その薔薇の花を大切にしていたのだ。




「…しまい込んだままで、ごめんね」



指先が優しくケースを撫でる。



赤い薔薇の花はまるで話しかけるかのように、座り込んだ彼女を見上げていた。





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