「すっかり遅くなっちゃったなぁ…」 降りしきる雨粒が差している傘を叩く。 雛は足早に、阿笠博士の家へ向かっていた。 蘭や園子と一緒に、オープンしたばかりの焼き菓子店へ行った帰りだったのだが、自分や快斗へのお土産用とは別に、博士の分も購入したのだ。 もちろん蘭や園子もそれぞれ購入していたから、今頃コナンの姿をした新一に「晩御飯の後のおやつね」なんて話していることだろう。 (博士にはいつもお世話になってるし…これくらいは、ね) だが、暗くなった空と少し冷え始めた身体を考えて、早めに帰ろうと思っていた。 新一の家まで差し掛かると、門前に何かを見つけた。 「――っ!!?」 街路灯の灯りで見えるところまで行くと、それは真っ白な布を羽織った女の子だった。 思わず息を呑んで駆け寄る。 どうしたの、と濡れないように傘を傾けて覗き込んだが、どうやら倒れたまま意識がないようだ。 赤みがかった茶髪が短かめに切り揃えられた、可愛い女の子だった。 真っ白な布は大人用とみられる白衣のようで、地面の水も吸っているのだろう…服はびっしょりと濡れている。 「ぁ…、」 起こそうと身体に触れた瞬間、何かがフラッシュバックした。 記憶の糸を手繰り寄せるまでもない、彼女が着ている服は白衣だけではなく全てサイズが大きいのだ。 (新一が小さくなったときと一緒……、) 途端に、怖くなって両手を胸の位置まで引き寄せた。 もし同じ毒薬を飲んだのなら、少なくとも自分と同じか…それ以上の年齢かもしれない。 被害者なのだろうか……そうなのかもしれないし、そうではないのかもしれない。 そして新一の味方という保証もなかった。 「……、」 固まっていた指先をぎゅ、と握りしめ、再度手を伸ばして小さな身体を抱き起した。 軽い身体は子供特有の細さがあり、冷え切っていた。 「ん……おねぇ…ちゃん、……」 くったりとした身体はぴくりとも動かない。 無意識に呟かれたものらしい。 「…雛くん?」 不意に、前方から声がして顔をあげた。 阿笠博士が傘を差しながら歩いてくるところだった。 小さな袋を手に提げているところをみると、外出先から戻ってきたところのようだ。 「博士…、」 「どうしたんじゃ、こんなところで……」 助かった、と雛は胸を撫で下ろした。 状況もあるが、何より、抱き上げようとしていた彼女を連れて行けるところを思案していたところだったからだ。 簡単に話をしながら、二人で小さな少女を運びつつ阿笠邸の門扉を開けた。 戻る |