雛に会ったのは、まだ俺が小学校に入る前だった。 母親の親友が「近くに越して来たの」と、一緒に連れてきた子供が雛だった。 「こんにちは」と俺より少し低い背で、ブラウンのふわりとした髪が風に揺れて、母親の影からひょっこり顔を出す雛が可愛かったのをよく覚えている。 「同い年だからきっと気が合うわ」と笑い合う母親達の言葉が遠くに聞こえるくらい、俺は一目で恋に落ちてしまったんだ。 「ひなちゃん、あそぼー」 俺は雛と遊びたくて仕方なかったが、顔見知りをしているらしい雛は何が恥ずかしいのか母親と一緒に座ったままだ。 それでも俺がソファから離れておもちゃを取りに行こうとすると、ソワソワしてこちらを覗いてた。 (可愛い…) 「ほら、雛。快斗くんに遊んでもらいなさい」 俺は、何度か勧められてようやくソファから降りた雛に近づいて手を伸ばした。 最近、やっと覚えたばかりの手品だ。 ポンッ 「オレ、かいと。よろしくなっ」 「っ、」 差し出した手のひらは、赤いバラの花を一輪咲かせてみせた。 「かいとくん、すごいっ!魔法使いみたいっ」 「───っ、///」 「わたしも…よろしくね、かいとくん///」 笑顔で喜んでくれる雛に、今度は俺が息を飲む番だった。 はい、とバラの花を渡すと、雛は大事そうに両手でその茎を包みこむ。 「ありがとう、大切にする!」 そう言って母親に「かいとくんにもらったの!」と、嬉しそうに報告する姿がまた可愛い。 (頑張ってマジック練習して良かった…///) 家族以外に披露して、喜んでもらえるなんて初めてだ。 マジックで打ち解けられた俺たちはその後、水を入れたグラスに花を生け、仲良く遊ぶことが出来た。 帰りは、俺の母親に包んでもらったバラをやっぱり大事そうに持ち帰ってくれた。 夕方、快斗は雛と雛の母親を見送りながら、隣に立つ自分の母親を見上げた。 「お母さん、ひなちゃんとまた遊べる?」 「あらぁ、快斗。聞いてなかったの? 来週から雛ちゃん、快斗と同じ幼稚園に行くのよ?」 「!!」 初恋かしらねー、と嬉しそうに玄関の扉を開ける母とは裏腹に、俺は雛の後ろ姿をずっと眺めてた。 戻る |