その男は、愛を吐いた。
自分への惜しみ無い愛を、まるで呪詛のように吐いて聞かせた。仰々しい立ち振舞いで、さもそれが世界の真理であるように語った。
ただそんなことよりも肩が、脚が、腕が、――全身がバキバキと音を立てるように痛いし、腹は空腹を訴えている。埃っぽい室内ではそのうちに朝と夜の順番さえも分からなくなってしまいそうだ。
早くここから出たい、こんな茶番劇に付き合っていられるか。自分にはすべき事と、やらなければいけない事が山程あるのだから。




「――刑事さん、どうして此方を見てくれないんですか?」



悲しげに肩を落とす仕草はまるで舞台上の役者のようで、吐き気が増した。
盛大に嫌悪感を表情に顕せば、激昂したのか右頬を思いきり殴られる。叫び出したいのはこっちだというのに、どうして、こんな。



「僕は、別に、刑事さんを傷つけたいんじゃなくて」



――違う、違う、こんな、つもりじゃなくて。ごめんなさい。ごめん、ごめん。
弱々しく謝罪の言葉を口にする彼は、まるで癇癪を起こした小さな子どものようだ。俯いているせいで表情は見えないけれど、もしかしたら泣いているのかもしれない。軋む腕を上げ、頭に触れる。あぁ、やっぱり、綺麗な黒髪だ。
一定のリズムでぽんぽん、と叩いてやると、一瞬驚いたように身体が強張ったが、直ぐに肩の力は抜けた。依然俯いている為に表情は窺えないけれど、小さい子どもをあやすようなそれは、嘗て自分が唯一の肉親にそうされると落ち着いたものだった。

もうどうにでもなればいい、そう思ったのは、長くかけられた呪いなのか、それとも。


それが歪んでいても、愛されたかったからだったからなのだろうか。


















カーテンコール
(毒されていた)