「――それで結局、あいつらは会えたのか?」

 「さあ?」



雁夜の主語の抜けたような言葉に対して、時臣は何の事だかを理解していて、涼しい顔をしながら読んでいる本から目線を動かさずに答える。それだけの動きでも彼が取れば気品のある行動に変わり、雁夜にとっては癪に障る。どこまでも優雅なこの男は、自分にとっては劣等感を最大限に刺激される。それなのに今の今まで幼馴染、なんて生ぬるい関係を続けている。自分がどれを取っても彼には敵わないと降伏し続けているようなものなのだ。



「ただ、先刻アインツベルンの御嬢さんには会えたから、恐らくそのうち、否でも会えるんじゃないかな」



およそ久しぶりに会うだろう幼馴染の仏頂面を思い出す。綺礼の実家――、言峰教会にある日やって来た少年は、全てを拒絶していた。瞳には何も映さず、心はきっと冷え切っていた。ただ、どこを気に入ったのか分からないが、綺礼は彼を気に入り、哀れにも切嗣は散々付け回された。そうしていくうちに、段々と話をするようになった。雁夜からしてみれば、綺礼に付け回されていた可哀想なヤツ、が第一印象だった。
アインツベルンは彼が養子として引き取られた家だ。自分の家とも少なからず親交があるものの、雁夜は家の二男な事と、自分の家に興味がない事があり、切嗣のその後を知らない。悪いようにはされていない、という事だけは聞いていた。義理の妹との仲も良く、本当の兄妹以上にブラコンでシスコンだとも聞いた。何にせよ、元気でやっているならそれで良かったのだから。



「……へえ」

「自分から聞いておいてその反応は、ちょっと酷いんじゃないかい?」



雁夜の生返事に機嫌を損ねたのか、時臣が手元の本を閉じ、雁夜の顔を覗き込む。この男は、自分が正義だと信じている。だからこそ、そんなに堂々としているのだ。そしてその真っ直ぐな目で見られると、彼が正しいような錯覚に陥る。雁夜はそこまで考えて頭を振った。



「最初に人の目を見て話さなかったのはどっちだ、馬鹿野郎」



言った後に、しまった、と思った。これでは自分が拗ねているようではないか。自分との会話を疎かにされて、機嫌を損ねていると捉えられるんじゃないか。そんな女々しい奴だと思われたくはない、この男には。急に恥ずかしくなって思わず制服の下に着ていたパーカーのフードを被り、机に頭を突っ伏す。遮断された視界の頭上で、時臣が笑う声が聞こえて、雁夜は羞恥心で死にたくなった。



「そうだったね、申し訳ない」



だから機嫌を直してくれないかな? 次に聞こえた言葉は机に突っ伏した自分より低く、そっとフードの隙間から外を伺えば、時臣が、まるで騎士のように跪いていた。ああ、だからこの男が嫌いなんだ、そう思いながら雁夜はもう一度だけ、ばかじゃねえの、とだけ呟いた。










見知った僕と彼
(なのに、どうして)