赤が嫌いだった。
厭でもあの男を思い出すから。自身の出生に誇りを持ち、常に余裕を持っているあの男は、自分の劣等感を最大限にまで引き出す。普通でありたかった。普通に暮らし、魔術なんて関係ない、ただありふれた日常を送って行きたかった。先に離れたのは自分だったというのに嫉妬や羨望の感情を彼に抱くたびに思い知る。遠坂時臣との違いを、そして己がどれだけ矮小な人間なのかを。
それでも自分にだって守りたいものがあると誓った筈だったのに、自分から吐き出される赤に、やはりあの男が脳裏をかすめる。違う、あの男と自分は違う、魔術師の品格などとのたまう男と自分が一緒な訳がないのだ。

ならば、この現状は何なのだろうか。
魔力を消耗し、倒れるように眠った事までは記憶にある。だがしかしそこは眠りにつく前の殺風景な空間ではなく、遠坂邸の数多く存在する部屋の一室だった。昔のよしみだ、等と恩を売るつもりなのだろうか。御三家だなどと言われても所詮この戦争では敵同士なのだから。



「一体何を考えてるんだ、お前は」

「成程、……やはり赤が似合うな」



ジャラリ、と音を立てる冷たい音に嫌気が差す。音は確実に自分の首から鳴った。軽く咳込んで喉元に手を当てれば、ゴツゴツとした首輪がその存在を主張している。悪趣味だ、つまり魔術師というやつらは、須らく頭が可笑しいのだろう。自分の家の、あの爺を思い浮かべ、眉を顰める。

ふざけるな時臣、俺はだからお前が嫌いなんだ。
言葉は空気と共に消え、掴みかかろうとした手は、何も掴む事は出来なかった。










朱に埋もれる
(だから、お前なんて)